Anthony Green And Barry Stagg / Same

Hi-Fi-Record2010-06-03

レコメシ番外編 その3


 適度に自然食な品揃えで、でもハムやベーコンやらを売っていないというのも辛いので、その辺りはテキトーな感じ。美味しいジュースやカット・フルーツがあり、サラダの野菜が新鮮。デリの暖かい食べ物が充実している。手頃なプライスのワインがある。そんなスーパー。
 日本だと輸入食品になってしまう食材を、アメリカの現地で買うとこんなに安いのかと驚いてしまう。気に入ったら、つい毎日通う。


 で、とあるお気に入りのスーパー、しかもここはレコード屋からモーテルまでの帰り道。レコード屋から車で数分という地の利だ。
 今日はサラダとパンと、そして、などと店内を歩いているうちに、デリの前に立ち止まる。
 ここのデリはミートローフやロール・キャベツやらローストビーフなどの肉料理、何種類もあるサラダ、ちょっとした中華料理、付け合わせのパスタやポテト料理など、とても充実している。ガラス張りのショウ・ウインドウの中に、綺麗に並べられている。スタッフに頼むと、ちょっとした味見も出来る。


 そんなこんなで数日通ううちに、初老の男性スタッフと顔見知りになった。
 味見をさせてもらったり、夕食の肉料理を買ったり。いつも一番小さなカップにしてと頼むものだから、これで足りるのか?と聴かれたりするうちに、ふとあるとき、どこから来ているの?と聞かれた。


 日本から、と答える。
 仕事?
 そう、レコードを買っているんだ。
 何だって、レコードだって。あの黒くてグルグル廻るレコード?
 そう。
 フランク・シナトラとか、エルビス・プレスリーとか、そういうの?
 そう。でもプレスリーは、買わないよ。高いんだもの。


 彼はびっくりしたように笑いながら、こちらの Gentlemen(松永クンとボク)はレコードを買いに来ているんだって、わざわざ日本から、と廻りのスタッフに、僕たちのことを紹介する。白衣の制服スタッフたちが、微笑みながら僕らを見る。


 翌日もまた同じスーパーに行く。
 やぁ、レコード・ハンターたち。どうだった? 今日はなにか大物が見つかった?
 どうかな、ちょっと疲れたよ。


 空港、モーテル、レコード店、ガソリンスタンド、ファストフード店、コレクターの家。息せき切って走っていると、こんなちょっとした会話が楽しい。
 

 それにしてもレコードを買うって、そんなに不思議な事なのだろうか。倉庫の奥にしまい込んだ時代遅れのホコリを被ったレコードを引っ張り出して、何が楽しいのだろうと思われているのだろうか。


 この街のとあるディーラーからゆずってもらったレコードがこれ。
 彼は、中身のほうは聴いた事が無い様子だった。守備範囲を超えた音楽だったからだろう。
 支払いのドル札の束を受けとりながらレコードを指差して、彼は「Is This gentle music for the gentle people ?」とボクに訪ねた。
 ボクはYesと答える。
 そして僕らは、別れの握手をした。


 「Gentle music for the gentle people」。
 この言葉が、忘れられない。
 なによりも彼らの音楽を語る的確な批評の言葉かもしれないと、思う。(大江田信)


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