Anthony Green And Barry Stagg / Same
レコメシ番外編 その3
適度に自然食な品揃えで、でもハムやベーコンやらを売っていないというのも辛いので、その辺りはテキトーな感じ。美味しいジュースやカット・フルーツがあり、サラダの野菜が新鮮。デリの暖かい食べ物が充実している。手頃なプライスのワインがある。そんなスーパー。
日本だと輸入食品になってしまう食材を、アメリカの現地で買うとこんなに安いのかと驚いてしまう。気に入ったら、つい毎日通う。
で、とあるお気に入りのスーパー、しかもここはレコード屋からモーテルまでの帰り道。レコード屋から車で数分という地の利だ。
今日はサラダとパンと、そして、などと店内を歩いているうちに、デリの前に立ち止まる。
ここのデリはミートローフやロール・キャベツやらローストビーフなどの肉料理、何種類もあるサラダ、ちょっとした中華料理、付け合わせのパスタやポテト料理など、とても充実している。ガラス張りのショウ・ウインドウの中に、綺麗に並べられている。スタッフに頼むと、ちょっとした味見も出来る。
そんなこんなで数日通ううちに、初老の男性スタッフと顔見知りになった。
味見をさせてもらったり、夕食の肉料理を買ったり。いつも一番小さなカップにしてと頼むものだから、これで足りるのか?と聴かれたりするうちに、ふとあるとき、どこから来ているの?と聞かれた。
日本から、と答える。
仕事?
そう、レコードを買っているんだ。
何だって、レコードだって。あの黒くてグルグル廻るレコード?
そう。
フランク・シナトラとか、エルビス・プレスリーとか、そういうの?
そう。でもプレスリーは、買わないよ。高いんだもの。
彼はびっくりしたように笑いながら、こちらの Gentlemen(松永クンとボク)はレコードを買いに来ているんだって、わざわざ日本から、と廻りのスタッフに、僕たちのことを紹介する。白衣の制服スタッフたちが、微笑みながら僕らを見る。
翌日もまた同じスーパーに行く。
やぁ、レコード・ハンターたち。どうだった? 今日はなにか大物が見つかった?
どうかな、ちょっと疲れたよ。
空港、モーテル、レコード店、ガソリンスタンド、ファストフード店、コレクターの家。息せき切って走っていると、こんなちょっとした会話が楽しい。
それにしてもレコードを買うって、そんなに不思議な事なのだろうか。倉庫の奥にしまい込んだ時代遅れのホコリを被ったレコードを引っ張り出して、何が楽しいのだろうと思われているのだろうか。
この街のとあるディーラーからゆずってもらったレコードがこれ。
彼は、中身のほうは聴いた事が無い様子だった。守備範囲を超えた音楽だったからだろう。
支払いのドル札の束を受けとりながらレコードを指差して、彼は「Is This gentle music for the gentle people ?」とボクに訪ねた。
ボクはYesと答える。
そして僕らは、別れの握手をした。
「Gentle music for the gentle people」。
この言葉が、忘れられない。
なによりも彼らの音楽を語る的確な批評の言葉かもしれないと、思う。(大江田信)
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