Murry Wilson / The Many Moods Of Murry Wilson

Hi-Fi-Record2013-07-01

レコード屋のはなし」その1


このブログでまた買付け中に出会ったレコード屋のことを書きますよと予告して
あっさり2ヶ月半経ってしまいました!


申し訳ありません。


昔は毎日あれほど書いてたのに。


気を取り直して
さもそんなブランクなどなかったように書きはじめますね。
連載のタイトルは
結局シンプルに
レコード屋のはなし」
にしました。


ではどうぞよろしく。


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「親子鷹(1)」


西海岸に住むあるディーラー。
日系人だが日本語はしゃべれない。三世くらいかなと思う。


きびきびとよく動くし
レコードの取扱がとにかく丁寧。
世界のヘンな音楽が大好きで
それなりに若いアンテナを持っている。


自宅を訪ねると
まだ十代と思しき息子さんが応対してくれた。
ディーラーの奥さんは日系ではないからか
彼の面持ちからは和風なテイストは消えかかっている。


息子さんがそんなに若いんだから
父親であるディーラーも60代にさしかかったくらいかなと思っていたら
「おれはあと2年半で70歳なんだ」というので
ちょっとびっくりした。


だがもっとおどろいたのは
その次に彼が口にした言葉のほうだ。


「70歳になったらおれはこの商売をやめる」


マジで?
それは勘弁してほしいな。


「毎週遠くのレコード・ショーまで箱に詰めたレコード持ってさ、
 車に積んで、車から降ろして、机に並べて、車に積んで、また帰る。
 そろそろ体も限界さ」


偽らざる本音だろう。
だってレコードって重たいんだもん。


レコードへの愛情も情熱も人の何十倍もあるけれど
愛情はレコードを代わりに運んではくれないんだ。


彼はその決意を淡々と語った。
格別口惜しそうでもないし
十分好きなことをしてきたという満足感みたいなものもある。


息子さんは手伝わないのかときいてみた。


「ないね」


愚問だった。


知ってるはずだろ、
この世界、
レコード屋の血筋は
なかなかうまくは遺伝しないんだってことを。


「コーラ、要るか?」


レコードを見続けて汚れた指先を洗うためにトイレを借り、
ディーラーが差し入れてくれたコーラをぐびっと飲んで一息。


そのつかのま
このレコード商売で見てきた
いろんな親子の姿をちょっと思い出してみた。


ちょっとその話
続けてもいいですか?(つづく)


松永良平