Jim Valley ジム・ヴァリー / Family

Hi-Fi-Record2013-07-03

レコード屋のはなし」その3


「親子鷹(3)」


あるレコード・ディーラーの子育ての話。


トイザラスで店舗マネージャーを数年間務めたのち
好きなレコードを売り買いして暮らすと決めた彼。
奥さんは州の役所仕事をしているので
収入面での不安は若干軽いとはいえ
ふたりの子どもたちを育てなくてはいけないという問題があった。


だが
レコードにかけては行動力も知識にも自信があった。
子どもたちを学校に送り届けたあとは
車を飛ばして近隣の街へ。


スリフト・ショップ、
アウトレット・ショップ、
ガレージ・セールをくまなくチェックしてまわる。


「あなたのコレクション買います」と広告を打ち
電話があれば現金を持ってかけつける。
この商売で大事なものは現金だと知った。
「トップ・ペイド(一番高く買います)」の評判が
良いレコードを集めてくれる。
もちろん売れるか売れないかの見極めも必要だけど。


そうやって暮らしているうちに
子どもたちも大きくなった。
娘はカレッジを卒業し、
息子は中学バスケのプレイヤーとして将来を嘱望され
カレッジのチームであちこちへ遠征する。


その遠征に応援に行けば
知らない街でも彼はおなじことをした。
スリフト・ショップ、
アウトレット・ショップ、
ガレージ・セール……。


「子育てが自分のレコード・ビジネスを助けてくれることもあるのさ」
彼は笑った。


その快活な笑いに
ちょっと苦さが見えたのが
この春のこと。


「息子が高校からはバスケではなくアメフトをやっていてね」


190センチはありそうな彼を追い越すほどの立派な体格に育った息子さんは
カレッジ・アメフトの選手としても将来を嘱望され
いまやアメリカ全国に遠征試合に出かけるほどになっていた。


ところがだ、
学費や遠征資金が
思ったよりかかる。


しかも
好調だったレコード・ディーラー稼業が
最近いまひとつ思わしくない。


最近レコード人気復活してるじゃん、と言ったら
彼は両腕を広げて
やんわりかぶりを振った。


「良いレコードが見つからなくなっているよ。
 みんなが競争相手だからね、それに」


それに?


「こないだローカル・サイケのシールド・コピーを2枚見つけて売ったんだ。
 一枚は1000ドル。もう一枚は800ドル。
 でも、それはすぐに息子のために使わなくちゃならない。
 おれの手元にはいくらも残らんよ」


そういえば
彼の息子がまだ今よりずっと小さかったころ
父親の手伝いでレコード・ショーに来ていたのを思い出した。


からだが大きくなってからは
レコードの運搬も手伝っていたはず。


こうして好きなレコードを売っている
素人目にはまるで遊びみたいに見える仕事が
自分の学校生活や日々の暮らしを支えていることを
息子はちいさいころから知っていたのかも。


息子はレコード蒐集の道には進まなかった。
それでも
彼は息子の成長と活躍を誇らしく思っているよう。


そのときの彼は
やっぱり父の顔だった。(つづく)


松永良平