Gary Ogan ゲイリー・オーガン / Let Go The Heart
買付メシの話 その1
松永クンがスタートした連載を読んで、ボクも買付のことを書いてみたくなった。レコード屋の話はこんな風にして、何回か書いたことがある。コレクターの話を書いたこともあるし、モーテルの話も書いたことがあったので、ここでひとつ我々の買付先に食べる食事について書いてみようと思った。ということでタイトルは、「買付メシの話」。
中華料理店というのは、アメリカのどの街にもある。スーパーやら家電量販店など一通りの店が入っているモールにあったり、街中の通りにハンバーガー・ショップの隣にあったり。それほど敷居は高くなく、なんとなくフラッと入ることができる。
その店に初めて入ったのは、もう20年近くも前のことだ。今のハイファイ・スタッフになって初めての買付のときだった。店に入ってメニューを見ていると、「Lo Mein」というのがあって、おっ、これはラーメンのことかと頼んでみると、出て来たのは焼きそばだった。がっかりはしたものの、とても美味しくて勢い良く平らげた。
店の前は下町風の大通りで車の往来も多く、店の近くには駐車が難しい。大通り沿いに停められず何分か歩く羽目になっても、足しげく通った。そうこうするうちにサービスをしてくれる奥さんと仲良くなった。今回は何日くらいこの街にいるの?などと訊ねられるようになったころ、日本ではスープに入っているヌードルを、ラーメンって言うんだと話しかけてみた。こっちではLo Meinって、フライド・ヌードルなのよ。ふうん、スープ・ヌードルが食べたいの?作って上げるわよ、ビーフ?それともポーク、チキン?
こうして作ってもらったチキン・スープ・ヌードルは絶品の味だった。
一年ぶりくらいにまた訊ねたときのこと、テーブルに着くや否や、いらっしゃい、チキン?それともポークのスープ・ヌードル?と訊ねられ、待ってましたとばかりに阿部クンがシーフードと答えた。シュリンプやスカラップを入れれば良いの?と彼女が聞き、そうそうと返事をした。ボクもそのオーダーに乗った。コックを務める旦那さんが作ってくれたシーフード・スープ・ヌードルは、それはそれは美味しかった。以来、昼食のメニューは、必ずと言っていいほどスープ・ヌードルになった。
しばらくして店に行くと、スープ・ヌードルがメニューに印刷されていた。メニューに載ってるじゃない?と訊ねると、近くの日本人大学生がよく注文するのよとの答えだった。その頃には通い始めた頃はベイビーだった一人息子も学校を出て、店の手伝いをするようになっていた。
あるとき昼食を食べて終えてのち、これから次の北の街に向かうんだと伝えた。そうなの、もうそろそろ日本に帰るの?あと数日、アメリカにいるかな。そういえばこの間、日本を旅行したのよ、家族で。どうして日本のチキン・スープ・ヌードルには、たったあれだけのチキンしか入っていないの?
彼女達、アメリカ人から見れば、日本の中華料理店の鳥そばに入っているチキンの量は、信じられないほどに少ないだろう。答えに窮した。
日本の街は奇麗で清潔ね。京都が素晴らしかった。寿司がおいしかったわ。西海岸のこの街では、新鮮な魚介が手に入る。月に一度は、行きつけの寿司屋に行くという。一家の好物は寿司だ。
そうそう、今日のランチのお金は良いわよ。私たちのおごり。中国人はね、親しい友人と別れるときには、食事をご馳走するのよ。それが習慣なの。こんどはいつ来る?また会いましょうね。
レストランで店主にご馳走してもらう。こんな経験は、日本でもアメリカでも初めてのことだった。
ハイファイの歴代スタッフが、この店には通っている。近くのレコード店のご主人と、夜の食事を共にするものここだ。良いレコードが手に入ることもあれば、空振りのこともある。運が良いときも悪いときも、ぼくらはこの街にくると、この店でスープ・ヌードルを食べる。(大江田信)