Dean Friedman ディーン・フリードマン / Dean Friedman

Hi-Fi-Record2013-07-09

買付メシの話 その2


 何が一番かって聞かれたら、アメリカで食べるダイナーのメシが一番好きだと答えるかもしれない。ダイナーというのは、主としてアメリカ北東部のニューヨークやマサチューセッツ州界隈にある安価なレストランで、アーミッシュの居住エリアとして知られるペンシルベニア州ランカスターあたりが、その南限になると地元の人に聞いた。


 店内は日本で言うところのファミレスそのものだ。席に着くとまず飲み物を聞かれ、だいたいの人がコーヒーを頼む。ジュースでもいい。アルコールは置いていない。そして卵料理、ソーセージ、ハムまたはベーコン、トーストまたはパンケーキ、ジャガイモ料理などをオーダーする。メニューはこれらがセットになっていることが多いのだが、それぞれの料理方法をいちいち頼む。卵はオムレツか目玉焼きかスクランブルエッグか、ベーコンを何枚にするか、ジャガイモはハッシュブラウンかフレンチ・フライか、トーストするパンはホワイトかブラウンかウィートか、それともパンケーキかなどと聞かれ、それぞれ事細かに好みを答える。値段はすべてで5ドルから高くても8ドルほどだ。なぜかトーストにはバターが塗られて出て来る。実はこの手続きが楽しい。店内で他のお客さんが頼んでいる様子を微笑ましく聞きながら、次はオレもそうしてみようと密かに決心したりする。
 この写真それぞれは我々3人のオーダーの様子。卵料理の好みやら、パンの好みが少しずつ違っていて、面白い。ダイナーのメニューは、こうしたアメリカの典型的な朝食だ。



 ダイナーはだいたいどこでも24時間営業。昼でも夜でも深夜でも、朝食が食べられる。
 エドワード・ホッポーが描いた「ナイトホークス」とまではいかないが、僕等はダイナーで夜遅くによく食事をした。
 「朝食」というのが、たぶんポイントなんだろうと思う。朝食には、幼い頃の母の記憶、家族が揃って食べる食卓の記憶などが伴っている。ささやかな安らぎと幸せを運んでくれる食事だ。そんな気分が店内のどこかに潜んでいるのかもしれない。あれだけ毎夜、食事時にビールを飲んでいるくせに、ダイナーがある街では、一日の買付を終えレコードをモーテルに運び込んでから、疲れた体をひきずってダイナーに出かける。

(大江田信)