Gary Lewis And The Playboys / Sealed With A Kiss

Hi-Fi-Record2013-07-13

レコード屋のはなし」その4


「シールド・オア・ノット(1)」


レコードの買付で重要なポイントは
今も昔もレコード・ショー(レコード・フェアともいう)。


全米各地で
その土地ごとのペースで定期的に開催されるレコード・ショーは
ぼくらのようなバイヤーにとってはもちろん
ディーラーたちにとっても勝負の場だ。


知り合いになったディーラーに
どこのショーが一番いいかとか
あそこのショーはどうだとかきいておくのが
一番ためになる情報だったりする。


その答えは、たとえばこんな感じ。


「セリングはグッド、バイイングはダメ」


つまり
自分が持っていったレコードはよく売れたけれど
他のディーラーから買うものはなかったという意味。


その口ぶりから微妙なバランスを読み取って
ぼくらはそのショーの
ディーラーの構成や客筋を判断したりする。
もちろんセリングもバイイングもグッドなほうがいいに決まってるけど
そんなに上出来なショーは
もう全米を探してもいくつもない。


ショーにいると
ディーラー同士のシビアなやりとりを目にすることもしばしば。


とあるショーで
テキサス・サイケの名盤のシールドが出品されていた。


シールドというのは
オリジナルで発売されたときの透明ヴィニールが
開封のまま残っている状態。


そのレコードをめぐって
お客がけんけんがくがくざわついている。
なかに顔見知りのディーラーがいたので
どうしたのと聞くと
「あれが本当のシールドかどうかみんなで調べてるんだ」とのこと。


シールド新品には気をつけろ。


それはアメリカで中古レコードを買ううえでは
とても重要なポイント。
きれいな新品だと喜んで買ったら
わるい業者がキズ盤を売るためにあとで偽のヴィニールを被せたものだった、
なんてことはじつはよくあるのだ。


そのうち
ヒッピーふうの身なりをした年配の男がごにょごにょと意見を述べると
その場にいた連中が納得した様子になり
レコードを売り主に戻して
三々五々その場を去っていった。


どうやら見た感じ、裁定はクロ。
プロ同士でも判定が難しかったみたいだが
男の意見にはだれもが従う理屈があるらしかった。


それでも売り主のディーラーは動じない様子で
そのままずっとそのレコードを売り続けていた。
それもまた
このレコードを本当のシールドと信じて買い入れた
目利きとしての彼のプライドなんだろう。


売り続けていればだれかが買うかもしれないし
もしかしたら
みなが一目置くあの男のほうが間違っているかもしれないじゃないか。
そんな顔に見えた。


激しい言葉の応酬や
肉体をつかったいがみあいがあったわけじゃないけれど
ぼくにはそのとき
プロのディーラー同士ならではの火花が見えた。


シールドをめぐる話、もうすこし続けましょうか。(つづく)


松永良平