井上としなり / としなり

Hi-Fi-Record2007-03-29

 ごくごく最近、知り合いになって、こうしてCDを預からせていただき、ハイファイで販売を始めた。


 トラディショナルのメロディを日本語にして歌っている「ケアレス・ラヴ」や、アメリカのフォーク・ソングを翻案したかのような自作品「流れ者」など、アメリカン・フォーク色の濃い作品を収めたアルバムだ。
 確かなギターの腕前の持ち主でもあり、さりげなくインストルメンタルも挟まれている。



 なにしろこの「流れ者」に心を奪われた。ちょっとカントリーっぽいクセをにじませる歌唱に惹かれると同時に、さまよう漂白の寂しさと、そこで得る安らぎを吐露する歌詞がとてもいい。
 気が付いてみると「ケアレス・ラヴ」も、ゆきずりの恋に身を任せた女を描く唄だし、他の自作品にも移ろう心を描く歌詞が聞こえる。もしかすると彼の唄の芯には、流浪の感覚があるのかもしれない。



 人生と流浪を重ね合わせる唄の作法は、60年代のフォークや70年代のSSWに親しんできた耳には、馴染み深いものだ。そこには人の生きる道筋も、ひとつの放浪であるという認識が裏打ちされている。



 現実に放浪者だったアメリカのフォーク・シンガーもいるし、人生のあるひとときに放浪を生きたシンガーもいる。実生活では放浪者ではなくとも、自らの道筋をそのようになぞらえてみることは不可能ではないだろうし、なにしろ放浪という言葉には、逆らいがたくロマンチックな響きがある。



 井上さんは、そうしたアメリカン・フォークのあり方を知る世代だ。
 歌声には、孤独を知る心が持つ暖かい眼差しが生きている。たぶんそれがフォークという音楽を生きてきた人の証しなのだろうと思う。とてもやさしい。(大江田信)



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