The New World Singers / The New World Singers

Hi-Fi-Record2007-07-07

 アルバム「Requia」のジャケットで、ジョン・フェイヒィはギターを左利きで弾く格好で写真に収まっている。フォークに強いアメリカのとあるレコード店で、店の主人がこれは写真が逆なんだよ、レコード会社が間違えてさ、とぼくに話しかけてきたことがあった。ジョン・フェイは右利きだからだ。
 ぼくは思わず、これはエリザベス・コットンへの敬意の表現だと思うと答えた。ジョンはエリザベス・コットンが大好きだったんだから、いちどまねしてみたかったんじゃないか、これは彼のささやかなユーモアではないかと。



 エリザベス・コットンは左利き。それも右利き用にチューニングされたギターを、そのまま左向きに持ち替えて演奏したフォーク・ブルース・シンガーだ。
 通例だと下から順に低音から高音に向かって並んでいる6本の弦が、彼女の手にあるギターだと高音から低音に向かって並んでいる状態になる。こんな風に弦が張られたギターで演奏するなんてそもそも無理難題なはずだろうに、どうして彼女はギターをあのように巧みに弾くことができたのだろう。
 淡々とした歌声を、素朴にして巧みなギターのフィンガー・ピッキングで伴奏した。50年代末に初めてレコーディングしたときに、すでに相当のおばあちゃんだった。


 エリザベス・コットンの音楽は、ミニマル・ミュージックのファンの耳を惹くという。
 ミニマル・ミュージックは音の動きを最小限に抑え、パターン化された音型を反復させる語法を用いるが、同時にそれは民族音楽に古くから見られるものでもあり、ミニマルの愛好家はそれにいち早く気づいていた。
 その響きには、確かにギターのフィンガー・ピッキングに通底するものがある。それはかつて共同体の誰もが知っていた民謡のメロディを弾くという、自らの主体性を誇示する必要などない音楽が演奏されていることから生じている。伝統的なフォーク・ソングには、"俺が、俺が"的な態度は無用だったのだのだから。



 ジョン・フェイは、様々な角度からエリザベス・コットンの音楽を愛していたのでないか。現代音楽にも、ブルースにも長じている耳を持っていた音楽家として。



 で、こちらのジャケット。これは見事な逆版だ。
 どうして印刷前に気がつかなかったのだろう。右利きのアーチスト3人が、そろって左利きに映っているのに。
 彼らはものすごくレベルの高いコーラスを披露するフォーク・トリオ。滑らかで黒っぽい響きが魅力的だ。演奏もえらくうまい。
 彼らが正しく右利きで映っているジャケットもあるという。それがものすごく珍しいそうで、探し続けて10年余、未だ手にしたことがない。(大江田信)



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