Monsters モンスターズ / Monsters

Hi-Fi-Record2006-10-31

今日はハロウィン。


ハロウィンのことを初めて意識したのは1989年。
その年、ぼくはニューヨークにいて、
現金を盗まれてスッカラカンになり、
クレジットカードのキャッシングマシーンを使って窮地を脱するも
数日で借金まみれになり、
一緒に渡米した友人は数日前に日本に戻り、
付き合っていた彼女にはふられる寸前であった。


ひとことで言うと89年のハロウィンのとき
ぼくは暗かった。


その日はハロウィンだったのだと知ったのは
日もとっぷりと暮れてからのこと。
6番街がやけににぎやかになっていた。


マンハッタンの名物であるハロウィンの大パレードの始まりだった。
思い思いに着飾った連中が楽しそうに通りを行進し、
脇道では子供たちが「trick or treat!」と駆け回っていた。


自分も別人になれるような気がして、
吸えない煙草を吸ってみたが、むせるばかり。
”我に返る”とはこのことで、
ハロウィンとは変装をして別人を楽しむお祭りなのに
ぼくはどうしようもなく自分自身だった。
何となく感極まって、ぷっと吹き出してしまった。


”自分探し”だなんて言われても、
”自分”はどうしようもないくらい我が身に
しっかりとくっついているんだわ、これが。
探す手間が省けた。


ハロウィンで出会ったのは怪物ではなく自分だったというお話。


今年、ハイファイのレジにはカボチャが飾られている。
今日はハロウィンということで、
モンスターズのアルバムが情けない音を立てている。
ドラキュラ(ギター)、狼男(ドラムス)、
フランケン(ベース)、ミイラ男(サックス)。
怪物に扮した野郎どもの、ひょろひょろとしたディスコやロックンロール。
こけおどしなのに等身大。
何となく昔のぼくみたいで……もないか。(松永)


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