Art Garfunkel アート・ガーファンクル / Watermark
伝記を読んで、ポール・サイモンのブリルビルディング時代のアーティへの仕打ちを知ってしまったからかもしれないけれども、ぼくにはどこかアーティに肩入れしたい気持ちがある。アーティの歌声にシンパシーを感じる。
どうしてあなたは、こんなに濁り無く歌を歌えるのですか?と聞いてみたくなるのは、彼のこういうアルバムを聴いているときだ。
アーティも僕らと同じような心の闇を持っていることは、彼が犯してしまった過ちを見ればわかる。潔白に生きてきた人の音楽だけが美しいと限らないことは、ある程度の年齢に達してくれば、自然にわかってくることだろう。
「明日に架ける橋」のボーカルをアーティに取らせるんじゃなかったと、ポールが悔やんだという逸話が残っている。アーティの声が持つ力をよくわかっていたからこそ、レコーディングの際にポールは彼に歌わせることを思いついたのだろう。ところが想像以上に「明日に架ける橋」が売れてしまった。時代を語る一曲に数えられるほどの曲になった。だったら作者の自分が歌えば良かったと、ポールは後になって悔いたという。
ポールがそう言っていることを耳にしたアーティは、どう思ったことだろう。
サイモン&ガーファンクル解散後に初めてアーティが全米ツアーを行ったとき、デュオ時代のレパートリーを歌う際のポール役をまかされたのは、ママ・キャスの妹、レア・カンケルだった。
もしも二人のデュエットの映像が残っていたら、ぜひとも見てみたい。(大江田信)