Ron McCroby ロン・マクロビー / The Other Whistler

Hi-Fi-Record2006-11-03

ぼくは口笛が吹けない。
どんなに頑張ってみても、
スースー、プープーと息が抜けてゆくだけだ。


NHKでやっていた「みんななかよし」のテーマ曲に出てくるような
「口笛吹いて〜、空き地へ行った〜」経験はないのである。


話は少し変わるが、中学一年のとき
階段から転落して顔面を強打。
上の前歯1本と両脇の歯の3分の2を失った。
以来、前歯は差し歯である。


今、差しているやつは比較的丈夫で(高かった!)
ずいぶんと長持ちしているが、
それ以前に差していた歯は、あまり持ちがよろしくなかった。


簡単に言うと、ふとした拍子ではずれてしまうのである。


大学生のとき、
朝まで飲み会に参加したあと、都電の線路をよく歩いて帰っていた。
以前にも書いたが、当時、ぼくは東池袋に住んでいたので
高田馬場からの帰りは明治通りまで出て、
あとは終電が終わった都電の線路を通学路代わりにしていた。
それが直線距離では一番近かったのだ。


その朝、
明け方の風が気持ちよかったのだと思う。
ぼくは吹けない口笛が吹きたくなった。


スッスー、プップー、ン? スポーン!


一瞬の出来事だった。
口の中に溜まった息と一緒に、
差し歯が外に飛び出したのだ。


ガーン。
気が付いたときはもう遅い。
がれきにまみれた小さな差し歯は、どこへ消えたかわからない。


それからしばらくぼくは”歯抜け学生”として過ごした。


口笛の名手の素敵なレコードに、
こんな話で申し訳ない。
吹けない口笛は吹くもんじゃない、という教訓である。
でも、
吹けない口笛を吹きたくなるのも人情というものだね。(松永)


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