Chico Hamilton チコ・ハミルトン / The Three Faces Of Chico Hamil
天は二物を与えず、と俗に言う。
それなら、おれは三物あるぜ、と
チコ・ハミルトンは言ってみた。
まあ、そんなところか。
気鋭のジャズ・ドラマーでソロはスリリング、
前衛的なアンサンブルの組み方にも長け、
歌もうま、うま、うま……うまくない。
何だ! 三段オチかよ!
しかし、ぼくは常々「二」より「三」の方を買っている。
二枚目とはもともと芝居で主役を張るいい男が
出演表で二番目に置かれるから言われるようになった言葉で、
主役を助ける役者が三番目に来るので
三枚目はおどけ者の代名詞のようになった。
だが、三枚目がヒトクセないと芝居は締まらない。
それに二面性、二枚舌……と、
「二」にはネガティヴなイメージもつきまとう。
裏と表しか無いんじゃ、どっちかに倒れるしかないじゃん。
その点、「三」の性格は見逃せない。
なにしろ、二角形ってのは存在しない。「三」から図形は始まっている。
三人寄れば文殊の知恵。
三度目の正直。
ぼくらが暮らすこの世界も三次元。
「三」に懸けられるバランサーとしての役割は大きいのだ。
だから、チコ・ハミルトンの突出した二つの才能が
いたずらに暴走しないようにするために
三個目の、愛嬌で聴かせる歌が必要だ。
とか言ったら、本人には怒られるだろう。
え? 許してくれる?
仏の顔も三度まで、か。なるほどねー。(松永良平)