Jeff Lynne ジェフ・リン / Armchair Theatre
可能な限りの幅広い音楽を聴いて考えて、時には執筆したり、時には販売したりするのが僕の生業だ。
音楽を聴く行為に中に、出来る限り好き、嫌いを持ち込まないようにしようと思った。考えることの妨げになるのではないかと思ったからだ。
それはそれで一理はあるはずだと思っているのだが、でもこうしたレコードを聴くと、やっぱりいいなあ、オレはこの音楽が好きだなあとシミジミ思う。
この微妙なスネアのタイミング遅れのダサ格好良さ、カントリーとロックンロールの合わせ技のようなギター・リフの音色、コード楽器を抜いてパーカションだけで作るブレイクにとぼけたボーカルを乗せるセンス、ミュージカル・ソウのような響きが混ざるセプテンバー・ソングのイントロからファースト・ヴァースへの流れ、そしてセカンド・ヴァースに登場する50年代のラウンジで響いていたようなピアノのフレーズ、決して上手くないボーカル。
すべてがいい。
いくらでも褒められる。褒めたくなる箇所がいっぱいある。
コーラス・ハーモニーがふとした歌詞々々の断片に設けられているのも、おもしろい。予定調和とアドリヴ的なものとを混ぜあわせたように見せるテクニックのようにも感じられる。
ゴスペルのコード進行を用いながら、こみ上げ系にまとめられたブローイン・アウェイ。間奏のデュアン・エディとアル・カイオラを混ぜ合わせたようなメロ弾きのギター。
上品なディランみたいな歌い方を見せるセイヴ・ミー・ナウ。
いちいちこうして考えオチ風に反応してしまうのだが、チマチマと楽しいわけではない。それを超えたところのもっとなにか大いなるものが、ぼくを楽しませてくれる。
ポピュラー音楽の昔を知れば知るほど光を放つパズルが一杯ちりばめられている。そして同時に彼が軸足を置くロックの意匠をまとったポピュラー音楽づくりの新しさが見えてくる。(大江田 信)