Kenny Nolan ケニー・ノーラン / Night Miracles
ロックのフィールドにおいて、黒人感覚を内に持った作品を発表した作家としては、相当に早い時期に成功を得た人ではないかと思う。
EW&Fの「Boogie Wonderland」を書いて、当てている。バリバリに黒人スタッフで固めているかに見えたEW&Fの大ヒット作品が、白人作家の手によるものだったということを初めて知ったときには、ちょっと驚いたものだった。そういえば西海岸の女性シンガー・ソングライター、アリー・ウィリスもEW&Fに「September」の大ヒットをもたらしている。彼女も白人だ。
旧来の黒人音楽は、多く黒人スタッフたちだけで固められてはずだったのに。
情けないオトコの心情があふれている、このアルバム。
情けないオトコの歌を、情けないオトコが聴いて共感する。
オトコが泣いている、それを聴きながら聞き手の男が泣く。
これがヴォーカル系AORの基本的なメンタリティだ。
そのステレオタイプな情感にすっぽりとはまることが、聞き手をグーンと盛り上がらせ、酔わせる。
人知れず泣くというカタルシスを得ることで、聞き手の彼はリラックスを得るのだ。
そんな気分のレコードだ。
フィリー・ソウルの熱く胸にしみ入るナンバーの数々が、思い浮かぶ。ハロルド・メルヴィンの「If You Don't Leave Me Now」なんて、極めつけ。
男泣きを、男が受け止めるというAORの美意識は、黒人音楽から継承されたものか?
これは今後の大きな課題ですね。
今日のところは、「Dancin' To Keep From Cryin'」で泣きながら踊ることにしましょう。(大江田信)