The Anita Kerr Singers / God Is Everywhere / Vision Of The Bless
ちょっと自慢をさせて下さい。
アニタ・カーから書留郵便が届いた。
ささやかなプレゼントを送ったとのメールがあったので、何が届くのだろうというかすかな期待の気持ちがあった。
郵便局員に手渡されたのは、手のひらに乗る程のちいさな箱だった。
幾重にも紙にくるまれている。ひとわたり紙を剥いて、それからもう一度、丁寧に梱包された包み紙をほどくと、出てきたのはスワロフスキー・クリスタルの小箱だった。
なかには美しい魚の小物が入っていた。
今はスイスに暮らす彼女に、シングル盤を数枚送った。手元に無く、レコーディングしたことすら定かでない音源があるという。これもその一枚だ。
ゴスペル・シリーズと銘打たれた一連のもので、地域を限定して販売するとか、取り扱うレコード店もそれほど数が多くなくプレス枚数が少ないなど、もしかするとポピュラー音楽のシングル盤とはまた違う扱いが行われたのかもしれない。
ぜひとも聴いてみたいというミセス・アニタ・カーの希望に応えて、シングル盤の数枚をスイスに向けて送った。そのお礼だと言う。
2000年には、ジーン・マリーノらかつてのメンバーが集って再結成のライヴを行った。その際にはかつてロビン・ワードが歌っていたアルトのパートは、アニタ・カーの娘さんが担ったという事だ。どこかに映像はないものか。
すでに80歳を超えた彼女だが、かつて自身が録音した音源を今一度、聴きたいと切望する彼女の気持ちの中には、今なお音楽家としての現役感が生きている。ポツン、ポツンと続く会話の中ににじんでいる。それに出来うる限り応えたいと思ったのだ。
送られてきたメールには「You are a true friend」とあった。
ぼくは陶然とした思いになる。
スワロフスキーの可憐な魚を、振り返ればいつも目に入る場所にあるガラス扉の中にしまった。(大江田信)