Erik Darling エリック・ダーリン / Child Child
エリック・ダーリンが亡くなったという知らせを受け取った。なにやら一昨日、リンパ腫の病が原因だったそうだ。
今にして思えば、西日が差し込む木造アパートの二階にあった、かつてのハイファイを訪れてくれ、その時に親しく話をさせてもらえて、なによりよかった。あれは何年前の事だったのだろう。旧ハイファイでお会いしたということは、もう8年近く前のことになるのだろうか。
レコードを通して遠く思い描いていたアメリカのフォーク・ソングを一気に身近に感じるようになったのは、エリックの言葉によるところが大きい。
下北沢で開かれたライヴの際、50年代に主宰していたグループ、タリアーズによる大ヒット曲「バナナ・ボート・ソング」を歌い始めたかと思うと、彼はふと歌を止めた。サビ部分の「I Wanna Go Home」について触れ、「アメリカにおけるHomeの崩壊が不幸せを招いている」といった内容のことを語った。「フォーク・ソングはHomeの大切さをそっと教えている」とも付け加えたと記憶する。
そうなのかとボクは思った。「家に帰りたい」として歌われる歌詞の一端に、「家庭」の価値がそれとなく埋め込まれていること、それが誰もの心に入り込むことが出来る歌というものなのだ。大仰に「家庭というものは大切なのだ」と声高にエラソーに歌うのではなくて。
この時のエリック・ダーリンの言葉が、それ以降の歌詞を読み解く際のボクの態度に大きな影響を与えた。
人々がふと口ずさむこと。
真実とは、小声で語られるのだということ。
今日は家に帰ってから、日本の切手の御礼としてエリックが送ってくれたフランス盤タリアーズの10インチ・アルバムと、このCDを聴こう。
このアルバムが彼の遺作となった。(大江田信)