The Dells And The Dramatics / The Dells VS The Dramatics
「まだアメリカにはレコードいっぱいあるんですか?」
お客様によく訊かれる。
実際、それは
輸入中古のレコード商売をしている者と、
買い集めている者の両方にとって
死活を左右する疑問なのだと言える。
「ありますよ、ただし足を使って回ることです」とか
たいていは答えることにしている。
とは言え、
広いアメリカ、
足を使うにも限度がある。
行ったことのない街、
行ったことのない州の方が
まだまだ断然多い。
逆に
あれほどの大都市なのに
レコードには恵まれないという土地も
決して少なくない。
付き合いのあるディーラーと話していたときに
そういう話題になり
「●●●州に行ったことがあるか?」という質問をした。
ディーラーたちは
この手の話が大好きだが、
手のうちがばれるのをおそれて
親しくなるまでなかなか謎を明かさない。
ぼくらを信頼してくれたのか、
それともぼくらの問いがあまりに荒唐無稽だったのか、
珍しく彼は答えてくれた。
「うわさではレコード屋はあるらしい。
でも、そこに行き着くための時間が無駄すぎるよ!」
それから数年後、
会うなり彼が切り出した。
「おい、おれはあの街に行ったぞ」
レコード屋はあり、
結構うれしい収穫があったという。
「行くんなら紹介するぞ!」
笑いながら彼は言った。
行けっこないとわかってるからだ。
「どうやってそこまで行ったの?」と訊いたら、
頭をかきながら彼は答えてくれた。
「いやー、実は息子のバスケの全国大会があってさ!
その付き添いを理由にして行ったんだけど、
ノーザンソウルのシングル2枚見つけて
それをイギリス人に売ったら旅費からおつりが出たよ!」
というわけで、
まだまだアメリカの奥地には
レコードは眠ってるらしい。
ただし、足と息子と幸運も必要かも。(松永良平)