The Dells And The Dramatics / The Dells VS The Dramatics

Hi-Fi-Record2008-09-08

「まだアメリカにはレコードいっぱいあるんですか?」
お客様によく訊かれる。


実際、それは
輸入中古のレコード商売をしている者と、
買い集めている者の両方にとって
死活を左右する疑問なのだと言える。


「ありますよ、ただし足を使って回ることです」とか
たいていは答えることにしている。


とは言え、
広いアメリカ、
足を使うにも限度がある。


行ったことのない街、
行ったことのない州の方が
まだまだ断然多い。


逆に
あれほどの大都市なのに
レコードには恵まれないという土地も
決して少なくない。


付き合いのあるディーラーと話していたときに
そういう話題になり
「●●●州に行ったことがあるか?」という質問をした。


ディーラーたちは
この手の話が大好きだが、
手のうちがばれるのをおそれて
親しくなるまでなかなか謎を明かさない。


ぼくらを信頼してくれたのか、
それともぼくらの問いがあまりに荒唐無稽だったのか、
珍しく彼は答えてくれた。
「うわさではレコード屋はあるらしい。
 でも、そこに行き着くための時間が無駄すぎるよ!」


それから数年後、
会うなり彼が切り出した。
「おい、おれはあの街に行ったぞ」


レコード屋はあり、
結構うれしい収穫があったという。


「行くんなら紹介するぞ!」
笑いながら彼は言った。
行けっこないとわかってるからだ。


「どうやってそこまで行ったの?」と訊いたら、
頭をかきながら彼は答えてくれた。


「いやー、実は息子のバスケの全国大会があってさ!
 その付き添いを理由にして行ったんだけど、
 ノーザンソウルのシングル2枚見つけて
 それをイギリス人に売ったら旅費からおつりが出たよ!」


というわけで、
まだまだアメリカの奥地には
レコードは眠ってるらしい。


ただし、足と息子と幸運も必要かも。(松永良平


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