Dean Friedman / Well Well Said The Rocking Chair

Hi-Fi-Record2008-09-17

 アルバムB面の1曲目に収録されている「The Deli Song」。
 デリとは、レストランよりもずっとカジュアルで、カフェよりも食事のメニューが揃っているところくらいのイメージだった。
 アメリカに通ううちに分かって来たのは、サンドイッチやスープやお惣菜、それからちょっとした甘いものなどをショーケースに入れて販売しているところで、日本で言えば持ち帰りのお惣菜屋さん。そして必ずと言っていいほど食事が出来る気楽なスペースを併設している、ということだ。



 各種のサンドイッチやサブ、スープ、ジュースなどのメニューがあって、いわばアメリカ式の軽食メニューが揃っていると思っていいのだろう。アルコールが用意されていないことも、デリの特徴かもしれない。デリにはコーヒーの香りが似合う。
 仕事前にちょっとした食事をとるとか、急いで昼食を済ませようとする人で混雑していて、店の中にはせかせかとした空気がみなぎっている。



 「The Deli Song」の冒頭には、実際のデリで収録して来たノイズが入っている。店を仕切っているのだろう、おばさんウェイトレスの声が聞こえる。オーダーをキッチンに通すボーイの声も聞こえる。



 やがて聞こえてくる歌は、主人公とウェイトレスの会話から始まる。
 朝の4時。
 彼は「ライ麦パンにトマトとコーンビーフを乗せたオープンサンドイッチに、コールスローを添えて」とオーダーする。一緒の彼女は食事はいらないと言う。ウェイトレスがアイス・ティーでもいかが?と薦めると、「では、それで」と彼が言う。
 そして彼は今まで見て来た映画はどうだった?と彼女に聞く。



 とあるニューヨークの朝の風景。
 何気ない日常のヒトコマ。
 ふと、ものすごく懐かしい気持ちになる。デリの喧噪に、いまいちど身を置きたいと思う。
 メニューを見る人、食事をする人、新聞を読む人、なにやら真剣に話し合っている男女、コーヒーを前にぼんやりとすわっている老女、忙しく行き交うウェイトレス、待ち合わせの男性を待っている女性。コーヒーの香り。どうしてなのだろう、さりげなくそっと眺めているだけで、とても幸せな気持ちになるのだ。(大江田 信)
 

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