Rickie Lee Jones リッキー・リー・ジョーンズ / Girl At Her Volcan

Hi-Fi-Record2008-09-18

 僕の中でいまグレン・グールドが流行っている。
 なかでもベートーヴェンピアノソナタがいい。ベートーヴェンの音楽を、あたかも偉大な作家の演奏を弾いていますという感じに、グールドは弾かない。そこのけ、そこのけ、ベートーヴェンが通るぞ、という感じではないのだ。ここのポイントが高い。これまでベートーヴェンを聴くと、なんだか憂鬱な気分になったり、妙に猛々しい気分になったりしたのが、グールドの演奏で聴いているとそうはならない。iPodで耳元で聴くのが楽しい。


 友人のグールド好きが、ベートーヴェンソナタを聴いた事がないというので、CDをあげた。ミュージシャンの彼を前にして一くさりしゃべりながら手渡すという恥ずかしいことをしてしまったのだが、その彼から感想のコメントが届いた。
 とてもいい、すっかりはまってずっと聴いているという。たぶんツアーの合間の移動中に、聴いているのだろう。
 それからもうひとつあった。まるでグールドとベートーヴェンが会話しているみたいだと言う。ふたりが語り合っているみたいに聴こえるということだった。
 この感想に驚いた。


 演奏家が作品や作家に頭が上がらないという風な音楽は、確かにあまり感じよくない。
 演奏家が作品と対等であっていいし、演奏に茶目っ気があっていい。自分の側にぐっと引き寄せた解釈の演奏だっていい。
 それが演奏するの側からの批評性ということになるのだろう。


 シンガー・ソングライターの資質を持つアーチストが、スタンダードをカバーするのって、それに近いのかなとふと思った。
 たとえばリッキー・リー・ジョーンズが歌う「My Fanny Valentine」。彼女らしさが全開のカバーだ。
 たぶん僕らが聴いているのは、この「My Fanny Valentine」という歌と会話をしているリッキー・リーなのだろうと思う。(大江田信)