Henri Rene and Orchestra / Paris Loves Lovers

Hi-Fi-Record2008-10-08

 アーサ・キットを手掛けたり、「Music For Bachelors」など、いわゆるバチェラー・パッド・ミュージックで名前を見いだすことになる先鋭的な面が有る一方で、ものすごくロマンチックなオーケストレーションを披露する編曲家がアンリ・レネだ。
 どことないヨーロッパの香りに引かれて、感心を持っていた。そうした彼のセンスの源は、名前からも伺えるように、フランスの血を引いていることにあるのだろうと思っていたら、フランスとドイツの両親の元に生まれたと、このアルバムのライナーにあった。


 ヨーロッパで音楽教育を受け、1930年代にハリウッドにやって来たという。その後ニューヨークのラジオ番組で30分のレギュラーを持ち、それがミュゼット・アコーディオンを弾く番組だった。アレンジャーに転じたのが1945年のことだ。
 本作はアンリ・レネが演奏するミュゼットを中心に配したフレンチ・メロディ集。


 レコード番号とレーベルから察するに、本作は1960年代初頭のリリースだろう。62年頃かもしれない。
 デッカの場合はステレオ録音を50年代中期という相当早い時期からスタートしている。まずはモノ盤をリリース、後年になってステレオ盤をリリースしたこともあるので、よく調べてみないとリリース時期と録音時期とに差異がないと断ずることは出来ない。
 同時代にフランスで録音されているプウルセルやモーリア、カラヴェリなどのポップス・オーケストラの演奏と比べると、アンリ・レネのほうがノスタルジックで懐古的な感じがする。かつての日々を思い起こしながら、制作したのだろうか。
 それとも海の向こうの故郷と、新天地アメリカに暮らしている彼我の差が生み出す想いの違いなのだろうか。


 それにしても全貌が見えてこない人だ。それゆえ、こうして一枚、一枚のアルバムと出会うごとに考えを巡らせることになる。それもまた、楽しいのだが。(大江田信)