Bud Dashiell バッド・ダッシェル / I Think It’s Gonna Rain Today

Hi-Fi-Record2008-10-30

 世間様に顔向けが出来ない、世間に笑われるなどという言葉を年寄りから聞いたのは、もう随分と昔のことのような気がする。いったい世間って何なんだ?、世間が何かしてくれたのか?とこちらは口を尖らせ、格別に「世間」を怖い言葉だとは思わなかった。



 最近になって「世間」は、「空気」になった。
 「空気」の方が「世間」よりも怖い。気分で動きそうだ。同調が前提になっている。
 「世間」は「空気」よりも参加している顔ぶれの数が、多い。因習のきらいもあるが、客観的ではある。
 だから、たぶん「世間」には、逆らってもいい。



 本作品を発表した時点のこと、バッド・ダッシェルは世間から距離を置き、屹立していたのではないか。
 かつてバッド&ダッシェルとしてデュオを組み、西海岸のフォーク・ブームに乗って成功を迎えた才能が、潮が引くようにブームが退潮に向かうなかで、自身と対話をすることとなって生まれた時間。その時間そのままが、アルバムに閉じ込められている。
 世間から少しだけ離れている場所で、自分の歌いたい歌をもう一度探しているようだ。静かな世界だが、気分は重くない。歌は、適度に軽やかだ。



 世間との隔絶を楽しむ音楽家もいるし、空気を読んでヒットを目した作品を投げ込む作家もいる。
 バッド・ダッシェルは、ここにいたる10年弱の時間を時代のトレンドと共に歩んだ人だ。スターダムにも上った。その彼が、ここに来て時代と微妙な距離を取っていること、そこに彼の音楽への何かしらの再確認の態度を読み取ることできるのでないかと思う。
 事実を仔細に検討したわけではないし、僕の思い込みに過ぎないとも思いつつ、アルバムを聴く度にこんな風に感じている。(大江田信)



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