Ken Nordine ケン・ノーディン / Love Words

Hi-Fi-Record2008-11-01

 ケン・ノーディンが、ピアノ・トリオの演奏をバックに、低く甘い声で「マイ・ファニー・ヴァレンタイン」の歌詞を読んでいる。


 主人公が、恋人のヴァレンタインに語りかける内容の歌だ。
 変てこでスイートで面白いヴァレンタイン。外見はギリシャ人以下だし、口を開いてしゃべる言葉もあまり利口な感じではないし、笑えるルックスは写真向きじゃない。


 ヴァレンタインは、言われっぱなしだ。
 それでも、こんな風に愛を語りかけられることになる。
 髪の毛一本も変えないで、そのままでいて。毎日がヴァレンタインなのだから。
 


 歌を聴くたびに当たり前のように、ヴァレンタインを男性だと思っていた。主人公は女性だと。
 ヴァレンタイン・デイは女性が男性に愛を告白する日なのだし、そう考えるのが自然なのだろうと思っていた。



 ケン・ノーディンは男性。男性が語りかける「マイ・ファニー・ヴァレンタイン」。
 こいつに混乱した。
 これは男性向きのアルバムなの?



 いや、違う。
 ヴァレンタイン・デイを女性から男性の愛を告白する日と考えるのは、日本だけのこと。
 アメリカでは、愛する男女がカードや花などを交換する日という。
 なるほど。
 だとするとヴァレンタインが男性でも、女性でも、この歌の世界は成り立つことになる。 
 


 そうなればこそ、次の疑問も氷解した。
 「そのままでいて」にあたる歌詞は、「Just A Way You Are」だ。このフレーズは、「マイ・ファニー・ヴァレンタイン」の40年後、ビリー・ジョエルによる新たな歌のタイトルにそのまま用いられた。
 歌詞の内容も、実はよく似ている。「マイ・ファニー・ヴァレンタイン」の二人のその後を思い浮かべさせるかのように。
 ビリー・ジョエルの「Just A Way You Are」は、ビリー自身が女性に歌いかけている。

 

 二つの歌が、このフレーズでつながっている。(大江田 信)



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