Ken Nordine ケン・ノーディン / Love Words
ケン・ノーディンが、ピアノ・トリオの演奏をバックに、低く甘い声で「マイ・ファニー・ヴァレンタイン」の歌詞を読んでいる。
主人公が、恋人のヴァレンタインに語りかける内容の歌だ。
変てこでスイートで面白いヴァレンタイン。外見はギリシャ人以下だし、口を開いてしゃべる言葉もあまり利口な感じではないし、笑えるルックスは写真向きじゃない。
ヴァレンタインは、言われっぱなしだ。
それでも、こんな風に愛を語りかけられることになる。
髪の毛一本も変えないで、そのままでいて。毎日がヴァレンタインなのだから。
歌を聴くたびに当たり前のように、ヴァレンタインを男性だと思っていた。主人公は女性だと。
ヴァレンタイン・デイは女性が男性に愛を告白する日なのだし、そう考えるのが自然なのだろうと思っていた。
ケン・ノーディンは男性。男性が語りかける「マイ・ファニー・ヴァレンタイン」。
こいつに混乱した。
これは男性向きのアルバムなの?
いや、違う。
ヴァレンタイン・デイを女性から男性の愛を告白する日と考えるのは、日本だけのこと。
アメリカでは、愛する男女がカードや花などを交換する日という。
なるほど。
だとするとヴァレンタインが男性でも、女性でも、この歌の世界は成り立つことになる。
そうなればこそ、次の疑問も氷解した。
「そのままでいて」にあたる歌詞は、「Just A Way You Are」だ。このフレーズは、「マイ・ファニー・ヴァレンタイン」の40年後、ビリー・ジョエルによる新たな歌のタイトルにそのまま用いられた。
歌詞の内容も、実はよく似ている。「マイ・ファニー・ヴァレンタイン」の二人のその後を思い浮かべさせるかのように。
ビリー・ジョエルの「Just A Way You Are」は、ビリー自身が女性に歌いかけている。
二つの歌が、このフレーズでつながっている。(大江田 信)