Nana Mouskouri ナナ・ムスクーリ / Nana
30年以上も前、この時期の真冬のパリに10日ほど滞在していた。
リュクサンブール公園の向かい側あたりの安宿に泊まって、サンミッシェルやサンジェルマンあたりを、やたら歩き回った。なんだか、とにかく寒かった。そのせいか風邪をひいてしまい二日間ほど寝込んだら、宿の主人夫婦が心配していろいろと心を砕いてくれた。凍えた体に暖かいカフェ・オレが、うれしかった。
今年のヨーロッパは、またいつになく寒いらしい。パリもご多分に漏れず極寒と聴く。
つい一週間前程までパリに滞在していたKさん、いかがでしたか？ そして今パリに滞在中のKさん、いかがですか。
美しくフォトジェニックなナナ・ムスクーリが、軽くうつむいているアルバム・カバーを手に聴く。A面4曲目の「愛の讃歌」にたどり着くうちに、首をすくめて歩いたパリの夜を思い出した。
夕食を食べに、近所の日本食レストランに向かう。風邪にいためつけれられたあとに胃には、油の軽い日本食のやさしい味わいがありがたかった。帰りの夜道、見知らぬアラブ人に道を尋ねられた。
ナナ・ムスクーリの歌声は、べたつかない。
どうしたことか、心細く一人で過ごしていた時間を思い起こさせる。(大江田信)
