李 礼仙 / 情歌抄 ひとりぼっちの朝の鎮魂歌

Hi-Fi-Record2009-07-28

The Cool School 39 はじめてのかいつけ その8


レコード・ショーで楽しいこと。
どのテーブルから何が出てくるかわからないこと!


レコード・ショーで困ること。
どのテーブルから何が出てくるかわからないこと!


初めて飛び込んだレコード・ショーの会場で
ぼくが困ったのも、まさにそれ。


右側にもレコード、
左側にもレコード、
正面にもレコード。
でも、お店と違って
ここからこっちはロックで
こっちはジャズで、
なんて区分けがない。


すべてのテーブルは
そのディーラーの個人商店であり、
それぞれに特色があり、
当然ながらぼくたち買付組にとっては
当たりはずれもある。


自信満々でレコードを飾り立てているのに
レコードはカスばかりというパターンもあるし、
妥協のない高値でコレクターズアイテムだけを売っている連中だっている。


それに
あと数分もすれば一般のお客さんたちがぞろぞろと入ってくるし、
そうでなくても今すでにアーリー・バードした連中が
続々と獲物をあさっているのだ。
うろうろと品定めをしている時間はない。


覚悟を決めて、右端のディーラーから始めることにした。
どうかこのひとが“当たり”でありますように……。


それにしても
レコード・ショーの眺めは壮観だった。


レコード店の店主、
あるいはレコード・ディーラーたちの顔を
これほどまとめてたくさん見たのも
生まれて初めての体験なのだ。


頼めばいくらかまけてくれそうな
ものわかりのよさそうな顔もいるし、
おれの中には伝説のロッカーが住んでいると
無言の腕組みで主張している顔もいる。


売り口上がうまいのか
品がいいのか
ずっとお客さんでいっぱいのテーブルもあるし、
何のために来ているのかわからないくらい
ずーっと閑古鳥が鳴いている老夫婦のテーブルもある。


テーブル一台を持つには
いくらかの参加料を払わなくてはならないはずだし、
何しろ売り上げがなくては哀しい。
あのひとたちは大丈夫なんだろうか。


「仕事を退職して
 老後の愉しみでレコードを売っているひとたちも結構いるんだよね」


大江田さんが教えてくれた。
見ると、レコードは売れないまでも
顔見知りらしいディーラーが通りかかっては
老夫婦と挨拶を交わしていた。


なるほど、そういうことか。
レコードが売れようが売れまいが
レコードを売るという行為で
彼らは通じ合っているんだな。


自分が70歳とか80歳まで生きたとしても
ああいう風に音楽と関わっていられたら
わるくはないな。


そう思うと
レコード好きの未来を保証してもらっているようで
とてもうれしくなった。


初めてのレコード・ショーで
ぼくらは結構ホクホクな収穫を得た。


帰り道は雨が降り出して
なかなかタフなドライヴだったけど、
上機嫌になったぼくたちは
堰を切ったように
それまでに話したことのなかったような
いろんな話をした。


今にして思い返せば
大江田さんと長時間まじめにしゃべったのも
そのときが初めてだったかもしれない。


何をしゃべったのかは忘れてしまったけれど、
2時間近く話して
年齢の差もあるのに
音楽や人生の話で飽きることがなかった。


この日
ぼくはようやくこの先ハイファイで
やっていけそうな気分になった。


それは、
この初めての買付を
一回限りの思い出にしたくないという強い意志を
ぼくが持ち始めたという意味でもあった。


いつごろからか
ぼくはこれで何度目の買付なのか
数えることもやめてしまった。
めでたいことじゃないか。(この項おわり)


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NHKわたしが子どもだったころ」をよく見る。


こないだは大鶴義丹の回で
ということは
唐十郎、李麗仙(礼仙)夫婦を親として描くという回でもあった。


再現ドラマでの
唐十郎の立ち振る舞いは
想像通りだったけど、
李礼仙はたくましくて、かわいらしかった。


彼女を演じている女優さんの表情に
とても力があって
このひとはいったい誰なんだろうと思った。


チャンネルをあわせたのが途中からだったので
キャスティングを見逃していたのだ。


そしたらエンドロールが流れて仰天することになった。
流れてくる俳優さんの名前に
中山ラビ」とあったからだ。


え? あの女優、中山ラビさんだったの?


だとしたら(いまだに確証は取れていません)
ぼくは李礼仙を見直しただけでなく
中山ラビをも女優として見直したことになるのだが。(松永良平


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