David McCallum デヴィッド・マッカラム / McCallum

Hi-Fi-Record2009-07-27

The Cool School 38 はじめてのかいつけ その7


初めての買付は
順調に日程を消化していた。
この日、ぼくは初めて街の移動というものを体験した。


車で2時間ほどハイウェイを南に下ったところにある
小さな大学街まで移動して
今までとは違うモーテルに一泊したのだ。


何故移動をしたのかというと
その街にも2、3軒ほどレコード屋があるのだけれど、
一番の理由は
この街で年に一度のレコード・ショーが行われるからだった。


ショーの開始時間は午前10時だが
2時間ほど離れた街から朝移動では具合がよくない。
前の晩から行っておけば、
アーリー・バード(第13回「来なかった男」参照)も可能だ。
というわけで
ぼくたちは前乗りを決め込んだのだ。


そして、その翌朝が
すなわち今朝だったというわけだ。


会場となるのはホテルの会議場。
ぼくたちは少し早めに着いた。
地下の駐車場にはディーラーたちの車も一緒に停まっていて
たくさんの箱を台車に載せて運び込んでいるのが見えた。


会場の前で並んでいる連中がもしたくさんいたら、
あるいは、
日本人と思しきディーラーが先に中に入っていたら、
アーリー・バードをしようではないかと
大江田さんとは話し合っていた。


それほどあせって早起きしなかったのは
この街のショーは年に一回しか無いし、
それほど注目度も高くないと見積もっていたからだった。


もちろん大江田さんには勝算はあったのだ。
かつて訪れたこの街のショーは
無名な割に良いショーだった。
たくさん良いレコードを、
それもハイファイ好みのシンガーソングライターやAORを買ったという
良い思い出を持っていた。


ホテルの中を矢印に従って進むと
列が見えてきた。
開場15分前。
並んでいるのは10人足らずといったところか。


「これならアーリー・バードはしなくてもよさそうだけど
 松永くん、入りなよ」


大江田さんは言った。
その言葉から
「絶対先に入ってみたいはずだし、
 君は先に入るべきなんだ」
という好意込みの期待をぼくは感じ取った。


その後、
確か大江田さんも一緒に入ったような記憶があるのだが、
ちょっとあやふやになっている。
とにかくぼくはお金を払い、
手の甲にスタンプを押され(これで出入り自由になる)、
会議室の中に入った。


そこは長い会議机の上に
採れたての魚や野菜のようにレコード箱が並べられた市場だった。
あまりの雑然とした物量に
一瞬足がすくむ。


「こら、飛び込め!」


小学生の水泳の授業で
飛び込みがうまく出来なかったぼくを大声で送り出した教師の声が
頭の中で鳴り響いた気がした。


この海ならおぼれない!
そう自分にまじないをかけるように
レコード・ショーの中にぼくはざぶんと飛び込んだのだ。(この項つづく)


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以前にコロムビアのLPレコードはある時期から
ジャケが数ミリ大きいという話を書いた気がする。


今回はキャピトル。
これはすごく簡単で
ジャケの右上に表裏にまたがって
直径1センチほどの黒いマルがプリントしてある。


通販でオーダーが入ったとき
キャピトルのアルバムを探すとき
ぼくはレコードをさくさく上下する前に
まず上から黒いマルを探しているのだ。


このデヴィッド・マッカラムのかっこいいジャケで言うと
顔の右斜め上あたりの場所にある。


スピード勝負のレコード・ショーでも
ちょっとは役立つかな。(松永良平


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