Michael Johnson マイケル・ジョンソン / For All You Mad Musicians

Hi-Fi-Record2009-09-25

 カナダ国境に隣接するミネソタ州の州都、ミネアポリス。9月も末になると、少しづつ近づいて来る冬が、目前に見え始めるようになる。10月に入ると、州の北部ではもう雪がちらつき始めると、彼の地の友人のメールにあった。翌年の4月まで、長く暗い冬の厳し寒さに耐え抜くしぶとさを要求する、北の最果ての街だ。


 マイケル・ジョンソンは、1969年から85年まで、17年間に渡ってミネアポリスに暮らして、音楽を創造した。


 マイケルの初期の一連のアルバムには、一様の暗さがある。心の内奥をおずおずと覗き込んでいるかのような、いや、覗き込まずにはいられないような"落ちて行く"感覚が潜んでいる気がする。
 「For All You Mad Musicians」は、1975年の作品。彼の2作目に当たる。暗やみの奥にゆらめく鈍い光のような滋味を放つ。
 そうした暗さが少しづつ晴れ間を見せるように明るくなって行くプロセスが、その後の80年代へ向けての歩みと思う。


 それにしても「すべての狂えるミュージシャンたちに」というこのアルバムのタイトルに、長く引っかかってきた。誰に向かって唱えているのか、いまひとつピンとこなかったからかもしれない。まさか、字面通り、同業のミュージシャンに向けて示されているタイトルなどではあるまいと、思っていたからでもある。
 このところ彼の初期作品をまとめて聞き直しているうちに、もしかしてと思い付いたのが、これはそもそも自分に向けた言葉なのではないか?ということだ。
 自分、そして加えて自分のような資質を持つ者への呼びかけの言葉なのかもしれないと思い始めた。


 マイケル・ジョンソンミネアポリスに暮らすようになったきっかけには、恐らく隠遁の気持ちがあった。60年代の末、NYでの音楽活動に続いて、西海岸にいたるミュージカルの公演を終えてのち、彼は大都会の暮らしから逃げるように、ミネアポリスに移り住んだ。街の小さなバーのバーテンをしながら生計を立てた。


 そうした時代の作品を、収めたアルバムだ。引きこもるかのように、大都会に背を向けた彼の背中が映る。おそらくそれは"Mad"な日々だったのだろうと思うと、このアルバムのドアが開く気がする。(大江田信)


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