Frank Sinatra フランク・シナトラ / The Sinatra Christmas Album

Hi-Fi-Record2009-12-18

The Cool School 101 ひとは見かけに その1


階段を地下に降りて、
なじみの店に入るといつもの店主がいなかった。
どうやら今日は休みのようで
店員と思しき男がカウンターに肘をついていた。


アルバイトと言っても
頭は結構薄いのに落ち武者みたいに両脇は長く、
てっぷりとしたあごには黒い毛穴が目立つ。
アメリカ人の年齢は見かけではわからない部分もあるけれど、
たぶんあいつはいい歳だろう。


アメリカの店としてはそれほど広いとはいえない店内に
レコードがみっちりとある。
レコードで詰まった箱の上に
さらにレコードの箱を載せて、
お客はそれを自由におろして見てもいい。


ただし、一箱30キロくらいあるから
よほどの物好きか
ディーラーでない限りそんなことはしない。


もちろん
ぼくたちは買付のために来たから
何箱だってあげおろしする。
そして
ここはそうやって重たい箱のあげおろしをしたくなる、
その甲斐のある店だった。
つまり箱の下には幸があるのだ。


ただし、
その際に大事なのは
お店のBGM。


元来、
この店の店主は非常にBGMのセンスがいい。
50歳は超えているのに
ヴァシュティ・バニヤンとタイのレアグルーヴ
嬉々として続けてかけたりする。


ある程度の年齢になると
ひとは自分の趣味をあまり更新しなくなる。
とくに音楽の場合。
そう考えがちなぼくの偏狭な脳みそに
いつでも軽いショックを与えてくれるのだ。


だが、
今日の落ち武者はちょっといけなかった。
レッド・ツェッペリン海賊版をかけて
ひとりで悦に入っているさまは
ただのリスナーであってパフォーマーじゃない。
おまえさんのボスは
そこんとこちゃんと意識しているよ。


さて
しこたまレコードを買ったので
会計をすることになった。


レジの調子がわるいらしく
男は大量の精算におののいていた。
電卓も見当たらないというので
しょうがなくぼくのiPhoneを貸した。


それでなくてもこの男、
よく言えばオフビートというか
わるく言えば手際がわるく仕事がのろい。
さっきはツェッペリンにあわせて
あんなにノリノリで動いてたのに、
いざ責任がのしかかってくるとおじけづくタイプ。


検算を2回して
まあこれでよかろうというところで
大江田さんがお金を渡した。


ちょっとレコード用の箱を探してくるよと男は言い、
しばらくカウンターを離れた。
箱を手に戻ってきてレコードを詰め終えると、
男は大江田さんに確認をした。


「あれ? おれ、おつりの5ドル渡した、よな?」
「あれ? もらってないんじゃないかな?」


ふたりがぼくをじろっと見た。
しまった。
そのときだけぼくは別のところに目をとられて
肝心の場面を見ていないのだ。


見た目で言えば
明らかに大江田さんの方がしっかりしてるし、
男の方がだらしない。
ひとは見かけによるのか? よらないのか?


さて、どうなる?(この項つづく)


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今月の買付では
クリスマス前ということで
移動中にクリスマス専門のラジオ局を聴いていた。


王道のクリスマス・ソングは一日に何度もかかる。
ジャクソン5やスペクターやマライア・キャリーを何度も聴いた。
普段だったらいい加減飽きてしまってチャンネルを変えるのだが
ときどき「あれ? これ誰?」と思う曲がかかるので
我慢して聴き続けた。


今回
「あれ?」と思わされたのは
フランク・シナトラの「ジングル・ベル」。
もちろん歌いだしたらすぐにわかるシナトラの声なのだが、
ゴードン・ジェンキンスがあしらったイントロのコーラスが
にくいのだ。


あわててレコードを探したが
オリジナルは見つからず
今回はこの再発盤に落ち着いたのだった。(松永良平


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