Ferrante And Teicher フェランテ&タイシャー / Snowbound

Hi-Fi-Record2009-12-20

The Cool School 102 ひとは見かけに その2


だらしない髪型に
だらしない服、
のらりくらりとした態度で
あまり信用出来そうにない店員の男は言い張った。


「おれはおつりの5ドルは渡した!……はずだよな」


一方、
わがハイファイ・レコード・ストアの大江田さんも応戦する。


「いや、もらっていない!……と思うよ」


どちらも強硬に主張しているようで
肝心なところで自信がない。
買付という仕事は
頭も肉体も酷使する作業なので
こういう今起きたばかりのことを思い出せなくなる現場は
決して珍しくないのだ。


そういうときに
横で見ているぼくが審判の役目をすべきなのだが
おりあしくそのときだけは
何故か壁に積まれた8トラック・テープをぼおっと眺めていたのだった。
ごめんなさいね、
ぼくにはわからんのです。


見た目勝負なら
大江田さんの完勝なんだけど……。


「おれはこう見えてもつり銭の間違いはしないんだ」と
男も引く気がない。


だが、
大江田さんが財布を確認したり、
ズボンのポケットをさぐったりしても、
5ドル札は出てこない。


まったく腑に落ちないという表情ながら
男はしかたがないなというそぶりで
しぶしぶ5ドル札を大江田さんに渡した。


「マジでこんなこと生まれて初めてだぜぇ……」


しかし
闘い済んでノーサイドという気分なのか、
最後は気持ち良く認め合い、
「裏口から出て車に詰めばいい」と指示をしてくれた。


車のそばまで来て
「大江田さん、トランク開けてください」と
ぼくが言ったときだった。


「あ……」


鍵をいれてあった上着のポケットに手をいれた途端、
大江田さんの動きが止まった。


そして
ひどくスローモーな動きで取り出したのは
そう、5ドル札。


「彼に謝ってくるわ!」


かくして
あの店員の不名誉は回復され、
生まれてから一度もつり銭を間違ったことがないという記録は
今日も更新されることになった。


ほんとかどうかは知らないけどね!(この項おわり)


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恵比寿tenementでのイベント
「encore!」今回もつつがなく終了いたしました。


寒いなか足を運んでいただいたお客さま、
素晴らしいレコードをかけていただいたDJのみなさま、
心地よい場所を提供していただいたtenementスタッフのみなさま、
ありがとうございました。
来年もよろしくお願いいたします。


今回はクリスマス前の
最後の週末ということで
例年になくクリスマスソングが結構かかっていたような気がします。


ハイファイのクリスマスレコード新入荷も
いよいよラストスパート。
もう少し出せそうなのでお楽しみに。(松永良平


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