Edmundo Ros / Heading South... Of The Border

Hi-Fi-Record2010-05-31

The Cool School 168 レコめし その5


買付中、
日本食が食べたくなるという瞬間は
かつてはほとんどなかった。


まだ若くて
アメリカの食事への興味も旺盛だったし、
ご飯とみそ汁がないと力が出ないなんて言い草が
弱音にしか思えなかったというのが
表向きの理由。


では
裏の理由は何か。


買付に行き始めて間もないころ、
ある山間の都市の店で買付を終えた昼下がり、
ぼくと大江田さんのお腹がぐうと鳴った。


そろそろランチにしようかということで
近場の店をきょろきょろと探すと
すぐ近くに
ジャパニーズ・レストランを発見した。


車まで割と距離もあったので
とりあえず手持ちのレコードと一緒にしけこんでしまおうと
店に入った。


入り口のすぐそばに注文カウンターがあり、
基本はテイクアウトだが
店の奥にも食べるスペースがあるという
まあ安いお店には
わりとありがちな作り。


ただ
一歩入っただけで
ここがいわゆる“ジャパニーズ”ではないことはすぐにわかった。


エキゾチックな創作料理の匂いが
妖しくぷんぷんと漂っている。


か、か、帰りましょうかと言おうとしたが
ふたりとも両手にレコードを抱えていて
ここからまたどこかへ行く気もしなかった。


うん、腹を決めた。
ヤキソバって書いてあるから
それでいいです。


数分後
お皿にこんもりと盛りつけられた料理が出てきた。


え?
これは何ですか?
頭の中が一瞬まっしろになる。


今でも鮮明に思い出せる。


それはきしめん的な幅の麺をソースで炒め、
その上にブロッコリーやピーマンなどを
天ぷら状のフライにしたものを乗せ、
さらに激甘のテリヤキソースをどばっとかけたものだった。


ただでさえブロッコリーが苦手なぼくだが
それを除いたとしてもこりゃひどい。


かろうじていくらか箸をつけたものの
そこからの帰り道は
買付の疲れも出ていたせいで
大江田さんが「もういい加減にしてくれ」と言い出すほど
その謎のヤキソバのことをあげつらい続けた。


ぼくとしては
怒りを通り越して
笑ってしまったようなところもあったのだが、
言われる方としてはたまったもんじゃなかったらしい。


その後数年にわたり
「あのとき松永くん怒ったよね〜」と
ことあるごとにいじくりネタにされ続けた。


そんなこともあって
アメリカの日本食には
しばらく抵抗感が強かった。


すべてはそのヤキソバのせいで、
まあたったそれだけの理由と言えば
それだけの話なのだけれど。


みなさんも
「こ、これは」と悪い予感を感じたら
引き返す勇気を持ちましょうねー。(この項つづく)


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このジャケに映ってるような
西洋料理の食材って
目に鮮やかで
実際に素材の味もしっかりしてるものが多い。


やっぱり
素材には向き不向きがあるわけで
正しく使いましょうねと
こういうジャケを見るたびに思う。


ここからヤキソバ作ろうとは
あんまり思わないことですな。(松永良平


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