GONTITI / 脇役であるとも知らずに

Hi-Fi-Record2010-06-14

The Cool School 173 みちくさの店


昔はよくみちくさをした。
少年時代の話じゃなくて買付の話。


と言っても
それほど昔でもない、
ぼくが買付に行きはじめてから2、3年くらいまでの話。


街から街まで
約2時間の移動があるとすると
たいていその間に小さな街があるもので
21世紀の初めくらいまでは
まだぎりぎり小さなレコード屋が一軒ぐらい残っていた。


だめもとでいいから
寄ってみようか。


ちょっと前に書いたこの
そんなみちくさの顛末のひとつだった。


そんな気まぐれで立ち寄った店には
おどろくほど珍しいレコードはあまりないけれど
不思議と印象的な体験が記憶に残る。


いつだったか
ハイウェイからはずれて15分ほど行ったところにある店で
ローラ・ニーロのアルバムを見つけた。
そのレコード自体はあまり珍しくないのだが、
ジャケの中に
彼女の別のアルバム
「ニューヨーク・テンダベリー」に本来ついているはずの
小さなブックレットが何冊も放り込まれていた。


そういうイレギュラーなものが
なぜかみちくさの店にはあるのだ。


もうひとつ思い出した。


ガソリンスタンド一軒のまわりに
かろうじて街並が見えるくらいの小さな街に
一軒レコードを売ってる店があった。


ほとんど古道具屋といった感じだが
店主夫婦は気のいい音楽好きに見えた。


レコードは本当にたいしたことがないものしかないのだが、
ショーケースの中に
ロバート・クラムがイラストを描いたトランプを見つけた。


何度も再版されているものだが
年季の入り具合からしてこれはオリジナルに近いものだろう。


じっと見ていたら
「ごめんよ
 これは売り物じゃなくてね」
店主が断りを入れてきた。


奥さんが困ったように苦笑してひとこと付け足した。


「あのひと
 あれが好きでねえ」


好きなものを集めるのだけ熱心で
売るのは興味ないものばっかりじゃ
こちとら商売あがったりなのよ……とまでは言わなかったけれど、
なんとなく彼女の嘆きが聞こえた気がして。


でも
そんな旦那の
悪びれない好き者具合もきらいじゃない。


このご時世、
ネットの進歩で情報の取捨選択が進み
ぼくたちのみちくさもすっかりなくなってしまった。
ああいう店はもうとっくに姿を消しているのかもしれない。


せっかく思い出したんだから
いつかまたあのあたりを通りかかったら
ちょっと様子を見に行ってみようか。


案外まだ元気にやっていたら
それはそれで頼もしい反骨だと思う。(この項おわり)


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GONTITIのセカンド・アルバムに収められた
チチ松村さんの歌う「闇のシダール」。


松村さんの歌は
93年に作った「ふなのような女」というソロ・アルバムでも聴ける。


しかし
この84年の「闇のシダール」は
また感じが全然違うのだ。


作詞作曲がゴンザレス三上さんだからか。
若いとうか
あやういというか。


調度品みたいにうつくしいアルバムのなかで
この歌だけ不用意にひび割れたような、なまめかしさがあって
いつもちょっとびっくりする。(松永良平


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