Milton Brown & His Musical Browniers / Clayton McMichen’s G

Hi-Fi-Record2010-08-07

昨日の続き。


 SPの時代の録音スタジオは、まさに音楽を録音するための場所だった。それまでに十分に人前で演奏されていたり、十分に練習が積まれてきた音楽が録音された。
 スタジオに入るまでに音楽は充分に練れていた。スタジオは練習場所ではなかったし、実験場でもなかった。


 スタジオで新曲を録音する。それからツアーに出る。そしてツアー先でそれらを収録したアルバムを売る。
 そういった「制作と販売の一連の流れ」の中に組み込まれたレコーディングよりも、はるか以前の時代だったということもある。


 スタジオを実験場にすることを、悪いと言いたいのではない。
 SPの時代の音楽は、必ずやライブで演奏されたものを録音している。つまり音楽は、目前の聴衆がいないだけのライヴ録音のようなものだ。聴衆の反応が、すでに織り込まれた音楽なのだ。
 SPに収録された音楽を聴くと、そうした実態の伴った音楽だということを、つくづく感じるのである。


 いわば良質のドキュメンタリーを、聞いているようなものだ。
 例えばクレイトン・マックミッチェンの演奏を聞いていると、土曜の夜のテキサスのダンス・ホールの熱狂が見えるような気がする。ウエスタン・ブーツを履いてテンガロン・ハットをかぶり、ウエスタン・シャツを着た男女カップルが微妙に体をふれあいながら踊る姿、とか。


 CDが売れなくなりダウンロードが当たり前になり、音楽の未来がなんだか暗澹としているいま、やっぱライヴだぜと、テレビ菊地成孔が言っていた。
 この「ライヴ」が、CDの再現をしながらCDを売るためのライヴではあって欲しくないと思うとすれば、熱気あふれる「ライヴ」な音楽はSPにいっぱい入ってますよと言ってみたいと、ふと思ったのだった。(大江田信)



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