Coley Jones And The Dallas String Band / Complete Recordings In

Hi-Fi-Record2010-08-06

 NHK BSで放送されている「名曲探偵アマデウス」という音楽番組が好きで、このところ毎週のように見ている。
 探偵事務所に持ち込まれたクラシック音楽にまつわる疑問を、探偵こと筧利夫が解いて行くという謎解き仕立てのバラエティ番組で、クラシックを一曲ずつ取りあげては、様々な角度から細かく見て解説していく。


 今週取りあげたのは、モーツァルトの「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」だった。クラシック好きならずとも、どこかで一度は耳にしているはずのよく知られたメロディだろう。


 この曲について、楽曲の構成、メロディの構造、モーツァルトによって確かに書かれたはずなのに譜面が未だに見つからない第二楽章の謎などが説明されたのち、実は同曲がここまでポピュラーになるには、SPレコードのおかげだったとする説が述べられた。


 これがとても面白かった。
 1920年代の批評では華やかだが深みが無いとされ、コンサートでも演奏される機会も少なかった同曲が、1930年代の批評では当代最も良くしられたクラシックの一曲とされるに至った。その理由をたどると、くり返しSPレコードに録音されて販売されたことによるのだと、国立音大の准教授がディスコグラフィを示しながら見解を述べていた。ベートーヴェンの運命と同じくらいの13回ほど、録音され発売されていたという。
 そしてまた、どうしてこのように録音が多いのかと言うと、「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」は、各楽章の長さが、ちょうど片面4分半ほど再生可能なSPの各面に収まる長さだからだという。すべてを録音してもSP盤2枚ですむ。
 かつて多くのクラシックのSPは、曲の途中で盤をひっくりかえさなければならず、これが大変に興ざめだったとは、年配のクラシック愛好者からよく聴く話だ。
 「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」は、曲の途中で盤を返す必要が無い。楽章が終わったところで、ひっくり返せばいい。
 つまりSPという新たに誕生したメディアに、ちょうど都合のいい音楽だった。
 そしてSPレコードのヒットが、コンサートで演奏される機会を促進したのだという。


 これには、いささか驚いた。
 「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」は、古来から有名な曲だったのだろうと、なんの根拠も無く思っていたからだ。1930年代のSPをきっかけに作り出されたポピュラリティだったとは、想像したことも無かった。新たなメディアの誕生が作ったヒット曲であり、「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」もまたメディアの時代の申し子となるのだと考えると、なんだかちょっと可笑しい。


 そういえばSPとポピュラー音楽というのも、実に相性がよかった。音楽の長さもちょうどいい。ラジオの電波よりももっと遠くまで、音楽を"運搬"できる世界で初めてのメディアでもあった。
 ポピュラー音楽の自然な躍動を最も充実して刻み込んだのはSPだったのかもしれないと、たとえばこんなに素敵なダラス・ストリングバンドの「ダラス・ラグ」を聞きながら思う。(大江田信)



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