John Sebastian ジョン・セバスチャン / John B. Sebastian (MGM)

Hi-Fi-Record2010-08-16

The Cool School 200 明日もフージンで会おう


ひさしぶりに
エリックの店を訪れた。


今までも何回か書いてきた
西海岸の愛すべきふとっちょおやじ。
ディーラーたちがレコードを持ち寄る
マーケット形式の店を経営している。
すこし風変わりで
大変かわいらしい人物。


一年半ぶりに会うエリックは
ますます仙人化していた。


もともとブロンドだった髪はさらにしろくなり
額の上は薄くなり
そのかわり
数年前から伸ばしているあごひげはかなり増大した。


布袋さまと福禄寿さまが合体して
アメリカ人になったような感じ。
それってすごく福々しいたとえだな。


つい先日
ハイファイで撮ってあった古い写真のいくつかを見る機会があった。
ぼくが働くようになる以前、
1990年代の写真もあった。


まだデジカメの容量も
サイト上で許される画像の情報量もすくなかったころで
まるで一枚の切手みたいに写真も小さい。


そのなかに
黒髪の多い大江田さんや
今よりも15歳くらい若いエリックを見つけた。


さすがに15年も経っていると
ひとの容貌は劇的に変化するものだなと実感させられた。


しかし
これだけは言えるのは
写真に映っているころの大江田さんとエリックも
たぶん今とそれほど変わらない話をしていたはずだ。


そりゃあ話題は
時代によって変わるだろう。
今は不景気とかインターネットとか
そういうテーマが話のなかに現れざるをえないだろう。


それでも
何か変わらないもの
通じ合っているものはあるのだと確信できる。
生真面目に言えば
それは音楽の愛し方。
その対象への
謙遜と恥じらいとすこしの悔恨が入り混じった愛情と
言葉でいちいち説明したくないけど確かに持っている誇り。


つまりそれは
自分の好きなものを
どういうわけか好きになってしまったという
体験と実感の共有だ。


ぼくたちとエリックは
だいたい一年に一度しか会わない。
ツイッターどころか
メールのやりとりもろくにしていない。


それでも
会うたびに
こうして瞬時にして打ち解け合えるのは
気前のいい店とたくさん買物をする客の関係とか
好きな音楽が一緒だとかではなくて
そういう秘密があるのだと思う。


エリックはぼくに言った。


「明日、閉店後にフージン行くか?」


店から歩いて数分のところにある
ぼくたちの大好きなチャイニーズ・レストラン。


エリックも
その店を経営する中国人一家もみな
ぼくがブロッコリーがきらいだということを知っている。
そしていつもそのネタで笑い合う。


明日もきっと
ブロッコリーの話になるだろう。


こんな毎日がいつまでつづくことを
ささやかながら
とても切実に
ぼくは願っている。


ジョン・セバスチャンの歌う
「アイ・ハド・ア・ドリーム・ラスト・ナイト」というフレーズが
不意に頭のなかを洪水のように流れた。


The Cool School おしまい。(松永良平


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