Steve Jordan スティーヴ・ジョーダン / Porque Sera

Hi-Fi-Record2010-08-15

The Cool School 199 ぼくたちのすこし奇妙な友情


西海岸にある
小さなレコード店


商店街の喧噪から距離を置き
しずかな一画に建っている。


週のうち2日は休みだし
遅く開いて早く閉まるその営業スタイルは
訪問客に対して熱心だとは言えない。


それでもこの店を
訪問リストからはずせないのは
レコードの品揃えのレベルがとても高いからだ。


市場の流行に流されるのではなく
インテリジェンスを持った価値判断と
アンノウンなものへの好奇心を
きちんと保ちながら営業しているこの店に
ぼくたちは確かな好意を感じているのだ。


大江田さんによると
もともと店を開けたのは先代で
今は息子が店を担っているのだそうだ。


この息子、
ちいさいころから父親の影響を受けた音楽で育ったせいだろう。
とてもシャイだが
良い目利きになっているようだ。


数年前からはインターネットでの通販にも力を入れている。
「これはだれも知らないだろう」と思って
ネット上で検索すると
なんと世界中でこの店だけがストックを持っていた、なんてケースは
思い出すだけで数えきれないほどある。


なにを隠そう
ぼくも個人的な海外通販では
よくこの店を利用させてもらっているのだ。


先日
ひさびさにこの店を訪れたときに
思い切って彼に
「先月、通販で自分のためにあなたの店からレコードを買ったよ」と
伝えてみた。


「ほんと? ありがとう」


普段はなかなか表情を変えない彼が
不意ににこっと
気を許した笑みを見せた。


毎年のように店を訪れて好意を示しているのに
雰囲気が打ち解けるきっかけは
ネットで交流をしたことだなんて
ちょっと奇妙な気もするけれど、
それもまたぼくたちが生きている時代の
すこし奇妙な友情の姿なのだろう。


レコード屋だったら
お客さんにはもっとお店に足を運んでもらいたい。
でも
遠くの見知らぬ音楽ファンから
自分の店のレコードを
というか
自分の店の価値基準というか美学のようなものを
認めてもらえる喜びというのも
確かに今この時代に
とてもダイレクトな感覚で存在するものなのだと思った。


さて、
ここでお知らせがあります。
たいしたことではないのですが、
明日200回目の更新で
The Cool Schoolはいったん終了します。


最初は50回程度持てばいいと思ってました。
そのあと100回を達成したことに気を良くして
なんとかここまで続けてきました。
ずいぶん適当に書いた日もありますし、
書き忘れていることがあるようにも思うのですが、
ひとまずの区切りとします。


レコード屋にまつわるやさしさが
あふれそうになったら
きっと雨が降り出すようにしてまた書き始めることもあるでしょう。


なんて
上のフレーズは
ランディ・ニューマンの改作です。


最終回をしみじみやるのはイヤなので
一回前に謝辞を書いておきます。


どうもありがとうございました。(この項おわり)


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ティーヴ・ジョーダン!
安らかに!
いや
あの世でも
にぎやかに!


こちらにも彼のことを書きました。(松永良平


Steve Jordan (Esteban Jordan) Feb.23.1939 - Aug.13.2010


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