Peggy Lee / Norma Deloris Egstrom from Jamestown North Dakota

Hi-Fi-Record2010-08-14

 ペギー・リーが歌うジャニー・ギターは、映画「大砂塵」(1954年)のテーマ。
 ということぐらいまでは知っていた。
 と言いつつ映画の方は観たことが無かったのだが、調べていくうちにいくつものおもしろい話のこぼれだす作品だとわかって、俄然興味がわいてきた。


 戦前の大女優ジョーン・クロフォード扮する主人公が、劇中で弾くピアノのメロディにペギー・リーが歌詞を付け、エンド・タイトルではペギー・リーの歌が流れる。これが「ジャニー・ギター」が初めて歌われた場面だ。


 ペギー・リーは40年代から70年代初頭にかけて活躍した女性歌手だが、実は作詞も手がけていて、1948年の年間売り上げ1位を記録した「マニアーナ」は彼女が当時の夫のギタリストと共に作った曲だ。この最初の夫とは結婚して10年もたたないうちに離婚している。
 同時期に創設したばかりのキャピトルと契約して、ボーカリストとして吹き込みをするほか、作曲家として作品も提供している。70年代に入ってもアルバムのリリースを続け、通算30年にわたって良好な関係を保った。
 離婚した男の名前は残らなかったが、ペギー・リーの名前は残った。

 
 ペギー・リーって不思議な人だと思う。
 大砂塵が制作されたのは、1954年。音楽はハリウッドの重鎮のヴィクター・ヤング。歌詞を書いて、しかも歌ったのが、本格的にデビーして10年余のペギー・リーだ。
 これで果たしてつりあいが取れるのだろうかとも思うが、映画を制作したのがB旧映画や西部劇を専門にしていた映画会社だそうで、いささかキャスティングにバランスを欠いても許されたのかもしれない。
 つまりぼくはペギー・リーの人生の場面に、たびたびの野心を感じることになるのである。


 ところでこの映画「大砂塵」。主人公は、「ジャニー・ギター」という名のギターを抱いた渡り鳥人生の男。かつて西部随一のガンマンだった男が、ヤクザ渡世から足を洗った。ギターを手に歌を歌いながら旅を続けている。
 小林旭の日活渡り鳥シリーズで、主人公のトレードマークがギターなのは、この映画の影響なのだそうだ。


このアルバムのタイトルにあるノーマ・デロリス・エグストロームは、彼女の本名だ。ノース・ダコタのジェイムスタウンの出身だとするのも、これも事実に即している。
 おそらく多くのアメリカ人がこのタイトルを見ると、おお、この美しい女性は、なんという田舎から都会に出てきたのだろうと驚くことになる。それが彼女がユーザーに仕掛けるギミックだろうと、ジャケットに収まる彼女を眺めながら思う。ぼくも少し彼女の魔法にかかっている。(大江田信)



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