Nancy Marano / Keep Your Hands Off My Baby

Hi-Fi-Record2010-09-27

アメリカのシングル盤は
ほとんどの場合
真ん中に穴の空いたペーパースリーヴに入った状態で
売られている。


人気者には
ピクチャースリーヴという
写真や絵を使った綺麗な外装が用意されることも多いが、
今、中古レコード屋で見かけるものも
9割がたは特別扱いのないシンプルなスリーヴだ。


これは病気の一種かもしれないが
シングル盤を買付するために
延々とその穴の中の文字やデザインを見続けていると
だんだんその文字が漫画のフキダシに思えてくることがある。


アーティスト名というやつは
男子なのか女子なのか
ひとりなのか集団なのか
名前だけではわからないことも多いが
曲名については
基本的にその曲のメッセージを集約したものであり
意味をともなって視覚に飛び込んでくる。


そしてそのなかではやはり
「好きよ!」とか
「嫌いよ!」とか
「今すぐ行くわ!」とか
「ちょっと待ってください」とか
恋にまつわる言葉を曲名にしたものが多いと言っていいだろう。


シングル盤になる曲の大半は
何らかのかたちでラヴソングなのだと言い換えてもいい。


そこでだ。
スリーヴのまるい穴から見える曲名を
飛び出す愛のフキダシだと考えるとき、
その求愛の仕方というか
うまいメッセージの発し方をしているのかが気になってくる。


名前も曲も知らないシングル盤を
ぱらぱらとめくりながら手を止める基準は
案外そこでしかなかったりするからだ。


「キープ・ユア・ハンズ・オフ・マイ・ベイビー」は
もともとキャロル・キングとジェリー・ゴフィン夫妻の曲を
リトル・エヴァがヒットさせたのが有名だけど、
これは同タイトルながら作者の違う別の曲。


タイトルをちょこっと拝借して
知らないひとに手にとってもらおうという目論見も
ちょっとはあったかもしれないけど、
まずはこのセリフの強さが大事だったんじゃないかとも思う。


「わたしの彼氏に手を出さないで!」って
フキダシとしての実効力、
かなり高いと思うから。


4、5回まわってニャンと鳴く その16 松永良平