The Mary Kaye Trioメアリー・ケイ・トリオ / Our Hawaii
とあるジャンルの音楽が、他ジャンルと交配したり実験的な試みが行われるなどして枠組みがゆるやかになるにつれて、音楽内容を標榜するはずだったジャンル用語が、音楽の方法を表現するコトバに変わる。
ジャズ・ミュージシャンが「フォーク・ナンバーをジャズった」という言い方がぴったりくるアルバムを聴きながら、「アドリヴやブルーノートを交えるフレージングや、それぞれの演奏者の高い独立性、スイングするリズム感などと共に『音楽する行動』の全体をさす言葉として「ジャズ」を使うと、すんなりくるのではないか」と思ったとブログに書いたことがある。
方法を表現するコトバとして用いられているかどうかは、動詞的につかってみておかしくないかどうか試してみることでわかる場合もある。
たとえば「ジャズ」。
古い例だが、今でも鮮やかに覚えているのは、フランス・ギャルのシングルに日本で付けられたタイトル、「ジャズる心」。60年代の中期頃だったか。
歌うフランス・ギャルはヒップなガール・ポップ・シンガー。このタイトルからは、「ジャズ」してしまう心、すなわち行動としての「ジャズ」を感じることになるだろう。
「フォーク」はジャンル用語の粋を出ない。「フォークっぽい」とは言えても、「フォークする=Do The Folk」とは考えにくい。
「ロックする」という言い方は、確かに日本語としてはちょっと変だけれども、意図は伝わる。「Do The Rock」と英語に言い換えれば、ピンとくるかもしれない。
ハワイアン音楽家がアメリカ本土に滞在中に生まれ、幼少時はハワイアンショウに出演していた彼ら。成人してからは、ジャズ風味のポップ・コーラスを売りにしてラス・ヴェガスで名を上げた。
これは、久しぶりにハワイアンを取り上げたアルバムだ。
ジャジィにハワイアンを演奏している。有り体に言えばこうなるが、ちょっと理詰めにして言えば「ハワイアンを素材にして、ジャズの方法で演奏したアルバム」、とこうなる。ハワイアンは素材。ジャズが方法。残念ながらハワイアンは、動詞にして使って誰もがピンとくる音楽としては広がっていないのかもしれない。(大江田 信)
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