Lulu ルル / Love Loves To Love

Hi-Fi-Record2011-01-23

 かつてレコード店を持っていたという男と出会った。とある街のレコード屋のカウンターで、ランチのサンドイッチをかじりながら、彼は店のスタッフとしゃべっていた。僕らがカウンターに持っていたレコードをまるで店のスタッフのように引っくり返し眺めているうちに、オレの家に来ないか?と誘われた。
 話をしてみると、かつてこの街でユニークな店を開いていた人物とわかった。ベース奏者としてミュージシャンをしているのは昔のまま。店は閉めたけれども、レコード・ディーラーは続けている、という。


 後日、彼の家の地下室にあるレコードを見せてもらいに行った。


 コンディションは決して良く無いものもある。オレは、コンディションには、それほど興味が無いんだ、と言う。
 コンディションが良い高いレコードを買うくらいなら、ノイズが出るレコードでも良いから、数多く聴きたい。


 レコードを見てみると、確かにその通りだった。必ずしもコンディションが良くは無い。しかし興味深いレコードが、数多くストックされていた。ジャズ・ミュージシャンだけあって、ジャズのレコードが多いが、ゴスペルやブルースやフォーク、そしてブラジルやハワイの音楽もある。頭でっかちの難しい音楽がだけが並んでいる、という訳では決してない。楽しそうに、レコードがこちらを手招きしている。
 地下室はレコードの倉庫になっていると同時に、彼の書斎にもなっているようだ。楽器が置いてあり、譜面を書くスペースも用意されている。


 レコードを聴く度に、頭の中にはスコアが書き込まれて行く。あるいは頭の中のオーケストラが、レコードをコピーする。レコードと共演し始める。そんなことが彼の頭の中で起こっているのではないか。
 このレコードはどんな内容なの?と聴くボクに、彼は的確な答えを返した。彼の体の中のオーケストラが鳴り出すかのように、サウンドの響きを伝える答えが口をついた。


 優れて音楽家の素養を持つことができれば、ノイズだらけのレコードでも、それを再構築して純化する魔法のオーケストラを頭の中に持つことが出来るのかもしれない。
 うらやましい気持ちで、彼のレコード棚を眺めた。

 
 ちょっとコンディションの悪い、このレコード。
 中身の方は全く問題なし。いや、最高。
 ボクのなかに魔法のオーケストラをもたらしてくれるレコードのような気もして.....。(大江田信)


試聴はこちらから。