Livingston Taylor リヴィングストン・テイラー / Liv

Hi-Fi-Record2011-03-09

 アメリカ買い付けを始めた頃のことを思い出している。


 頼りと言えば電話帳だった。初めて行く街。モーテルに着いてまずすることと言えば、その街の電話帳のレコード店をチェックすることだった。部屋ごとに必ず、電話帳が備え付けられていた。
 幾たびか同じ店に行って顔見知りになると、あの店には行ったか?とか、あの街に行くならばあそこに行けとか、いろんな情報がもらえる。レコード屋にいると、自分の家にレコードを見にこないかと誘ってくれる人もいる。電話帳だけが、レコード屋を知るすべではない。
 それでもやっぱり、いざ頼りになるのは、モーテルの電話帳だった。



 アメリカ国内便の乗り継ぎに利用した飛行場の通路を歩きながら、ふと思い立って電話帳を見に行った。電話が数台まとまって置かれていて、電話の横には電話帳が備え付けられていた。ただし持っていかれることが無いように、しっかりとくくり付けられている。
 次の乗り継ぎ便まで、余り時間がない。目的のレコード店のページを開く。思わずページを破こうとしたら、同行のスタッフに厳しく止められた。


 モーテルの電話帳を頭から順に繰っていると、気がつかないうちにページが飛んでいる。そんなことがたびたびあった。
 電話帳の何ページかが破りとられている。レコード屋のページが破られているとすると、前に僕らと同じような動機を持った客が、同じ部屋に泊まったことなるのだが、ありがたいことに、レコード屋のページは無事だった。レコード探しに同好の士は数多くなかったのかもしれないが、電話帳と言えば、どこかしら何らかページが破られているのが、常だった。そんな電話帳を見慣れていた。


 乗り継ぎの飛行場で厳しく同行者に止められたにもかかわらず、ボクはレコード屋の掲載されている数ページを破り取ったように記憶する。飛行場の電話帳は、どこもかしこも破られている。それが、ちょっとは罪の意識を軽くしてくれた。
 何ヶ月後かに、その街に訪ねた。 手元の電話帳の数ページが助けになったことは、言うまでもない。

 
 最近の飛行場では公衆電話など見る影も無い。そこには数ドルで何十分かを自由に扱うことが出来る公衆用のコンピューターが並んでいる。電話も携帯の時代になった。電話帳などどこを探しても、見かけない。


 電話帳の時代から、ハイファイが扱い続けているレコードの一枚がこれ。切れること無く、店頭にある。
 ハイファイらしいレコード、なのかもしれない。(大江田信)



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