Walter Scharf And His Orchestra / Passion!

Hi-Fi-Record2011-04-09

 先日、レス・バクスターの「ポルトガルの四月」を聴いた。そこはかとなく太陽の日射しの恵みが感じられるサウンドを楽しんだ。冒頭のギターの音からは、ポルトガル・ギター風の響きが感じられる。50年代当時のイージー・リスニングのマナーで作られている作品なのだが、こうしてどこかしらポルトガルらしさが埋め込まれているのかもしれない。


 ポルトガルの音楽に詳しい訳ではないのだが、ファドの出来上がり方を知って、とても興味を抱いたことがある。
 これまではポルトガル発祥の音楽と考えられていたファドは、このところの研究の成果で、ブラジル発祥の音楽がポルトガルに飛び火して発展したものと考えられるようになったという。つまりファドはあらかじめ多国籍音楽なのだ。そうと知ってからは、そうした目線をもって他の音楽を見るようになった。


 ブルースしかり、ジャズしかり。アメリカに誕生したからアメリカ音楽なのではなくて、すでにあらかじめ多国籍音楽としての出自を背負って生まれた音楽なのだと考えてみると、もっとわかりやすくなるのだろう。


 で、昨日のタンゴの続き。


 アルゼンチンでダンス音楽として始まったタンゴ。そのリズムの起源をたどって行くと、キューバを経由してアフリカにたどり着く。
 つまりタンゴは、アルゼンチンとアフリカの音楽要素をはらだん多国籍音楽。それがヨーロッパでもてはやされた。
 アルゼンチンでカタチを整えたアフリカ的なものに衝撃を受けた西欧、アルゼンチンを経由してのヨーロッパとアフリカの出会い、そうしたドラマがヨーロッパ・タンゴの底に流れているものかもしれないと考えると、なんだかとてもおもしろいと思う。


 今日は、アメリ東海岸の音楽家ウォルター・シャーフが南米音楽に挑戦した一枚に収められたタンゴ「Moonlight Tango」。
 現代音楽が視野に入っているような響きが聞こえる。そして、それが不思議な根無し草的感覚をもたらす。面白いな後味の音楽だ。(大江田信)



試聴はこちらから。