Kui Lee / The Extraordinary Kui Lee

Hi-Fi-Record2011-06-11

 家族全員がお世話になっている眼鏡店に、母の眼鏡の加工をお願いしに行った。
 お店の店内で流れている音楽は、ハイファイでお求めいただいたものが多い。お店のドアを開けると、ジョニー・ラッソがかかっていた。


 眼鏡の仕上がりを待つ間に、店内のBGMの話になる。
 店主の西島さんが、最近お気に入りのラヴェルの「ピアノ協奏曲ト長調」のCDをかけてみたところ、どうも合わなかったんですよねえと仰る。ピアニッシモからフォルテッシモまでの音量の幅が、店内のBGMにふさわしくないらしい。


 店内BGMって、音楽の組み立てとかメロディとかが難しくて、聞き手に理解を求めるものは向かないんじゃないですかと、ボクも思うところを述べる。


 音楽に理解を求める類いのものがあって、もちろん悪い訳ではない。メロディを取りにくい、解りにくい、和声を取りにくいなど、どうも親しみが持ちにくい、何となく聞くには、難しい。そんな音楽も、一歩、二歩、踏み込んで聞くうちに、思いもかけぬ感動を得ることもある。
 でもそれでは、店内BGMには向かない。
 メロディやリズムや構成など音楽の全体像を、もっと直感的につかみやすいものが向いているのだろう。


 そんなことを思いながら、「解りやすい音楽の方が、BGMには向きますよねえ」と言葉を交わす。店内には、ダイアナ・クラールが歌う静かなバラードが流れる。雨の昼時に、よく似合う。

 
 これはどうかなとふと思いついたのが、クイ・リーだった。冒頭の「I'll remember you」なんて、ぴったりかもしれない。フランク・シナトラにいたるまで、多くのシンガーがカバーした作品をオリジネーターが歌う。


 今度、自分の眼鏡を受け取りにいくときに、持っていってみようかなと思う。
 気持ちのいいBGMを聴いているうちに、つい気に入ったフレームを見つけてしまって、母の眼鏡の仕上がりを待つ間に、自分用の眼鏡を新調してしまったのだ。(大江田信)



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