Ray Conniff / Honey

Hi-Fi-Record2006-06-28

 レイ・コニフ・シンガーズの一連のアルバムは、50年代後半から60年代初頭にかけてのアメリカで、ものすごい売れ行きだった。爆発的だったと表現してもいい。
 どうしてそんなに売れたのか、今となっては推測をするほか無いのだが、時代のヒット曲のメロディのカバー、ヴォーカリーズ的な処理の魅力などと説明されても、いまひとつピンと来ない。こういう匿名性の強い音楽の場合は、アルバムを売るレコード会社の力量も、相当にヒットの要因になってはいるだろうが、やはり音楽それ自身になんらかの鍵があるのではないか。それはいったい何なのだろうと、首をひねりながら聴いているうちに、彼の音楽をとても好きになってしまった。



 ジャズ系のダンスバンドのブラスセクション・パートをコーラスにスキャットさせることから始まった一連のレイ・コニフ・シンガーズもの。各社から後追いの企画が登場する中、生き残ったのはレイ・コニフ作品だけ。そのわけは、キチンとリズムをキープするリズム・セクションにあったとRCAで同種の企画を担当した編曲家、Bob Thompsonはインタビューで語っていた。おっと思って注意深く聴いてみると、なるほどその通りだ。リズム・ボックスなどまだ無かった時代に、そんな工夫をしていたのか。
 そして気付いたことがある。レイ・コニフのシンガーズ達はスキャットを歌う時はもちろん、歌詞を歌う時も適度に統制が取れている。そのフレージングはと言うと、キチンとした譜面に従っている事がわかる。歌詞の譜割りが、細かく指定されている。オリジナルとは、微妙に違う。時として裏の8分や16分音符を続けて歌うなど、さりげない工夫が秘められている。言い換えれば、それぞれのシンガーの歌手生理に委ねられたものではなく、アレンジされオーケストレーションされている。そのフレージングはというと器楽的。インストルメンタル的に処理されているのである。



 だからレイ・コニフ・シンガーズのコーラスには、人の声の温かみを感じると同時に、器楽の音色の一つのようなクールな清涼感がある。ビブラートが無いのも、そうした印象を与えるに際して、寄与している。コーラスでありながら、インストルメンタルとの中間点にある音楽なのだ。
 ふむふむ、と思いながらまた気付いたことが、ドラムとギターのカッティングに付与されているエコー、これが思いの外に深い。ブラス系のサウンドが多用されるのは、これは彼がトロンボーン奏者出身ということとも関係があるのだろう。そしてフェイド・アウト作品が、ほとんど無い。どうしてなのだろう?


 謎は尽きないのだ。(大江田)


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