Julie London / Yummy, Yummy, Yummy

Hi-Fi-Record2006-07-15

60年代を生きたポップ・ヴォーカリストにとって、
時代の趨勢をになうロックやポップスと、いかに同調するかというのは大きな命題だった。


60年代も後半になってくると、たいていのアーティストがビートルズあたりを皮切りに、
次々とヒット曲をジャズ風味のアレンジで歌い出す。
フランク・シナトラ、ペギー・リー、エラ・フィッツジェラルドサラ・ヴォーン……。


コロムビア・レコードの社長だったクライヴ・デイヴィスの回顧録によると、
トニー・ベネットは最後までそうした方向性に抵抗したシンガーだったという。
それでも説き伏せられた結果か、彼も結局ポップなアルバムを出している。


女性だと、ジュリー・ロンドンがその代表だった。
「ワイヴズ・アンド・ラヴァーズ」など一部をのぞいて、
最後の最後までポップスにはほとんど手を染めようとしなかった。
(確かビートルズは一曲だけやっていたような)


ところが、最後に大逆転というか、
歌手引退アルバムである最後の最後の作品で、とんでもないアルバムがリリースされた。
あの色っぽい声で1910フルーツガム・カンパニーの「ヤミー・ヤミー・ヤミー」を歌い、
それどころか「ルイ・ルイ」や「ハートに火をつけて」などポップスを歌いまくったのだ。


うるわしき暴発。
アメリカでもカルト・クラシック扱いされているこのアルバム、
ぼくは大好きである。
どれくらい好きかというと、そうだな、
ジェフ・ベックの「恋は水色」くらい!
あれも最高ですね。


最後に余談というか追悼を。
8時半の男のことをぼくと大江田さんで二日続けて書いていたら、
何という偶然か、その宮田征典氏が亡くなった。
ご冥福をお祈りします。(松永)


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