Anita Kerr / And The Franch Connection

Hi-Fi-Record2006-07-17

 アニタ・カーは女性音楽プロデューサーとして映画音楽をまるまる一本担当した最初の人物だとか、60年代初頭にスキーター・デイビスの「この世の果てまで」で全米1位の大ヒットを飛ばした最初の女性レコード・プロデューサーだとか、それだけ聴くとどんなに勇ましい人なのだろうかと思うけれども、彼女自身の音楽からはそんな感じは微塵もうかがい知ることは出来ない。ワーナー期のアルバムには、彼女と旦那様の名前の頭文字から付けた会社名が制作者としてクレジットされていて、音楽のビジネス面にも長けていた人なのだということを思わせるものの、とにかく優しくて、デリケートで、ふっくらとしたやわらかさがある音楽には、比類がない。


 メンフィス、ナッシュヴィルロサンジェルスと生活と音楽の本局地を移動してきた彼女が、旦那様の故郷、スイスに移り住み、スタジオを設けて録音した作品がこれだ。RCAからリリースされているというクレジットを見て、古巣と契約したんだろうなあと思っていると、直後のアルバムはまた別のレーベルからリリースされている。70年代以降の彼女は、レコード会社とワン・ショットの契約を重ねながらアルバムを発表してきたのかな、それにしても落ち着かないなあと思いこんでいたら、実はそれは大いなる誤解だった。
 スイスに移住した彼女が新たに契約したレコード会社は、オランダのフィリップスだった。フィリップスからのサブ・ライセンスでアメリカや日本、ドイツなどで彼女のレコードはリリースされていたのだ。ぼくがアメリカのリリース元を見ているから混乱して見えただけなのだった。


 70年代以降のアニタ・カー。実はこれが相当にヒップなサウンドに満ち満ちている。年取るごとにヒップになっていく。そしてビジネス面でも自分の作品を作り、そして守る術を知っていく。それって理想的じゃないか。


 ということで、ぼくはこれからオランダ盤のアニタ・カーものを集めなければならないのだ。(大江田)


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