Don Choate / Thursday’s Children
フランソワーズ・トリフォーの映画「アメリカの夜」。ノイローゼ気味のハリウッド女優や気難しい男優、妊娠がバレた新人など、問題あるスタッフをかかえて、監督の撮影もなかなかはかどらない……。映画撮影の風景というシチュエーションだけで、特にストーリーらしいストーリーも無いが、映画好きの人ならば良い気持ちになれる不思議な作品。こんな風にネットの映画サイトでは紹介されている。
公開当時に見て、面白いと思った。映画とは何かというテーマがほのかに透けて見える映画。つまり言ってみれば映画論映画なのだ。今で言えば、大作映画と同時に撮影され発売されるメイキングとよく似ている。そういう風に見えるように作り込まれている。なるほど、こういう映画への愛の表現の仕方もあるんだなあと、とても感心したのだった。
多かれ少なかれミュージシャンというものは、楽器を弾きながら、同時に音楽って何なのだろうという問いが頭の中で反復している人種だろう。
聞き手に対してそういう思考回路をなにかしら求めてくる音楽というものもある。ある種のジャズとか、ある種の現代音楽とか。肉声や歌詞を備えていないインスト音楽の場合は、そうした傾向が強くなる。いわば音楽論音楽。
そんな音楽から最も遠いところに佇んでいるレコードが、これだ。
ドンさんにとって、音楽って何ですか?
えっ、何だって? 何で、おれにそんな質問するんだ? オレは歌うのが好きなだけさ。 自分の好きな歌を歌ってたら、こんなアルバムが出来上がっちまってさ。いや、なに、それがなかなか気に入ってるんだけどな。音楽って何かなんて、考えたこともないぜ。なあ、そんな質問、オレにするなよ。
彼には会ったこともない。これは全くのボクの想像。第一、レコードだってローカルな田舎町でリリースされたこの1枚しか、見かけたことがない。
それにしても楽しくこんな想像をさせてくれるようなレコードなのだ。
彼の手のひらには、既に音楽がある。それを丁寧に愛でている。ボーカルから、想いがこぼれてくる。それがとてもうらやましい。(大江田)