Bonnie Koloc / Wild And Recluse

Hi-Fi-Record2006-08-02

 歌を歌うときの歌い手の心理回路ってどうなっているんだろうって、ずっと昔から興味がある。
 物語を描き出す映画監督、あるいはカメラマンのような立場から歌を紡ぎ出すのか、それとも歌の主人公としてその歌の世界で振る舞うのか。簡単に言ってしまうと、こんな振れ幅の違いがある気がするのだ。客観的か、主体的かの違いということになるのだろうか。だいたいにおいて女性シンガーのことを、想像しながら考えているのだけれども。


 歌の歌詞、メロディというのは、歌い手を歌そのものの世界に引きずり込む魔法の力を持っている。歌い手は、それに引き寄せられる。引き寄せられつつも抗うか、そのまますっぽりと歌の世界にはまり込むか、歌い手の立つ場所、そして歌の発せられる場所がそうして決まっていく気がする。


 ぼくは歌にすっぽりとはまり込みながら、歌う女性シンガーが好きだ。彼女があたかもその世界の住人であるようにして、歌が響いてくるのがいい。
 たぶんボニー・コロックは、決して歌の上手いシンガーではない。しかしその歌のはらむ世界が似合う住人であることを明かしながら歌う点において、優れた才能を発揮する歌手だと思う。
 彼女はフォーク・ソングを歌ってきたシンガーだが、このアルバムはポップ・ソングを扱っている。そしてとても素晴らしい作品だ。


 フォーク・シンガーが歌うポップ・アルバムには、そんな密やかなドラマがはらまれている気がする。
 見つけるたびに思わず手に取ってしまうのだ。(大江田)



http://www.hi-fi.gr.jp