Beach Boys / Surf’s Up

Hi-Fi-Record2006-08-07

ブライアン・ウィルソンが元気に音楽活動を再開して数年。
迷宮入りの作品だった「スマイル」もめでたく作品として完結し、
ライヴをすれば、まさか生で聴けるとは思っていなかった名曲が演奏され、
ファンには至福のときが流れている。


その一方で、もう二度と聴くことが出来なくなった曲というのもある。


72年のアルバム「サーフズ・アップ」に収録されている
「フィール・フロウズ」はカール・ウィルソンの作品。
ほとんど忘れかけていたこの曲のことを思い出させてくれたのは、
映画「オールモスト・フェイマス(あの頃、ペニーレインと)」。


ラストにこの曲が流れたとき、思わずハッとした。


ポール・トーマス・アンダーソン監督は映画「ブギー・ナイツ」のラストで、
「ゴッド・オンリー・ノウズ」を流した。
誰もが知りすぎている名曲をあえて使ってみせた。
ある意味、挑発的に。


キャメロン・クロウ監督は「オールモスト・フェイマス」のラストに「フィール・フロウズ」を選んだ。
あのアルバムでは、タイトル曲と「ティル・アイ・ダイ」と
「ディズニー・ガールズ」が注目の曲だと普通は思う。
このジトッとした曲を選ぶセンスは、相当にマニアックだ。


彼にこの曲の魅力をぼくは教えてもらったようなものだ。
兄ブライアンの不在の時期を支えた弟カールの、
人間的な優しさと、それゆえのほろ苦さが切なくにじんでいる。


「オールモスト・フェイマス」は優しすぎるほど優しいロック映画で、
この曲はとてもよく似合っている。
「ゴッド・オンリー・ノウズ」ではダメなのだ。


カール・ウィルソンが亡くなってしまって、
この曲を彼が歌うのを聴くことが出来ないことを本当に残念に思う。


本当にときどき、「ペット・サウンズ」全曲よりも、ぼくはこの曲が好きだ。


あ、それから「あの頃、ペニーレインと」という映画の邦題はキライです。(松永)


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