Vince Guaraldi / Eclectic

Hi-Fi-Record2006-08-08

ヴィンス・ギャラルディというピアニストは、
スヌーピーのテレビ・シリーズのテーマ曲を作曲したことで知られている。
それ以前にも「キャスト・ユア・フェイト・トゥ・ザ・ウィンド」という
ラブリーな名曲を書いていて、多くのミュージシャンがこの曲をカヴァーしている。
そういうイメージだけで考えると、とてもかわいらしいひとに違いない。


だが、実際の彼は相当な奇人だったらしい。
60年代の末、スヌーピー仕事で名声をあげた彼は
ワーナー・ブラザースで3枚のアルバムをリリースした。
「エクレクティック」というアルバムは、その最後にあたるもの。
キュートさを求めて寄り添ってくるファンを突き放すような
一種異様なジャケットにも、その奇人ぶりの一端が現れている。


おそるべきはそのヒゲである。
もしもサルバドール・ダリがヒゲを伸ばしっぱなしにしたら?
そんな感じの頑固にうねった口ヒゲ顎ヒゲ。
不思議なかたちの眼鏡をかけ、うつろな目でこちらを見ている。


まるで祈りを求めるような不安定な声で歌われるティム・ハーディンの曲が
ひどく印象的だ。
彼が歌声を聴かせているのはあとにも先にもこのアルバムだけ。


このアルバムで彼はミュージシャン業をすっぱり引退した。
以後もスヌーピー関連のアルバムはリリースされているが、新たな録音はしていない。
「勝手に使え」ということだろう。


76年に亡くなったとき、彼はまだ48歳だった。
スターであり、同時に隠遁者だった。
謎かけめいた人生を送ったこのピアニストのことを、
もう少し知りたいとぼくは思っている。


「エクレクティック」というタイトルのアルバムを
小沢健二が出したのは、何か縁があるのかもしれない。
深読みに過ぎますか……。(松永)


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