Peter Gallway ピーター・ゴールウェイ / Peter Gallway

Hi-Fi-Record2006-08-24

 奥付を見ると一九九六年十二月二四日第二刷発行とあるから、初めて手にしてからもう十年近くが経ったと言うことになる。小西康陽著「これは恋ではない」。
 いまだにボクの生活圏の近くのどこかに置いて、ことあるごとに拾い読みをしている。



 ついさっきもポール・ウィンター・ウィズ・カルロス・リラについての一文を読んでいた。もう繰り返し何度も読んでいるはずにもかかわらず、読み手のこちらのシチュエーションが違うと、また違う立ち位置で読んでいることになるのだろう、まるで初めて読むかのように文字が立ち上がって、目に飛び込んでくる。(レコードの)「コレクター連中はマジメな記事なんか読まずに、この手のレコード・ジャケットの載ったページばかりをいつまでも眺めていたものだ」という一節に突き当たり、最近、「ジャケ買いのススメ」という本にエッセイを執筆したボクは、それっていつまでたっても変わらないんだなあ、ジャケ写って永遠なんだなあと、なんだか微笑ましい気持ちになった。



 この明け透けなまでの音楽への愛を、品のいい文体と共に表明している一冊の中で、最もボクの胸を打つのが、「ピーター・ゴールウェイがグリニッジ・ヴィレッジを語る」と題された8ページにも渡る長文だ。ピーター・ゴールウェイが在籍したフィフス・アヴェニュー・バンドを知ったことから、小西さんの中でふくらんでいったグリニッジ・ヴィレッジへの憧れ、フィフス・アヴェニュー・バンドを起点にして広がり深まっていったアメリカン・ミュージックへの想いが率直に語られる。
 そしてついに、なんと彼はピーター・ゴールウェイにインタビューすることになる。



 インタビューの中身は同書を読んでいただくとして、小西さんがこの文章の最後に書かれた次の一節を、ボクは忘れられない。「このインタビューを終えた日の夜、ぼくは家に帰ってから泣いた」。そしてなぜ自分があれほど泣いたのかわからないと、突き放すような述懐を添えて文章を閉じている。うらやましいくらい素敵な結びの言葉だと思う。



 ぼくが「ジャケ買いのススメ」で書いたエッセイで取り上げたレコードも、フィフス・アヴェニュー・バンドだった、偶然にも。あのジャケットにひかれて、高校生のボクはレコードを買ったのだった。



 フィフス・アヴェニュー・バンドの中心人物、ピーター・ゴールウェイ。痛いくらいにかけがいのない青春の声を収めたアルバムだ。(大江田)


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