Bob Crewe Generation, The / Music To Watch Girls By

Hi-Fi-Record2006-08-30

 アメリカから帰ってきて一週間経つというのに、まだ時差ボケが治らない。休日の午後にふと眠くなり、ちょっと休むつもりで横になると、目が覚めたのは夜の7時だった。ぼんやりとした頭で夕食を取り、またちょっと横になったら、こんどは朝の5時半に目が覚めた。近年、とみに時差ボケからの回復に時間がかかる。先日ハイファイに見えたお客様によれば2日で直るそうで、なんともうらやましい。



 時差ボケ。英語では Jet Lag 。熟語として意味を持っているので、バラして考えるのもどうかと思いつつ、Jetという言葉に引っ掛かる。Jetはジェット機の意味だろう。船を用いて世界旅行をしていた時代には、時差ボケは起きなかったのだろうか。プロペラ飛行機の時代には、どうだったのだろうなどと考えつつ、今では時差ボケを引き起こす最大の要因がジェット機による東西移動なのだから、Jetという言葉が用いられるのも、当たり前と言えば当たり前なのだと独りごちる。
 
 
 そんなことを寝ぼけた頭で考えながら、千里眼という言葉を思い出した。これは英語のSee For Miles を訳す際に、福澤諭吉が日本語としてあてはめた言葉と、松永クンに教わった。今では我々が何気なく用いている英語を原語とする日本語を、数多く翻訳した人が福澤諭吉だという。なるほど、それは面白いと思って、ちょっと調べてみたことがある。
 福澤諭吉はじめての出版物「増訂華英通語」(1860年)で、彼は英語に日本語訳を増補している。これを見ると、Take Careを「気をつける」、What Do You Wantを「何がいるか」(それぞれ原文はカタカナ)と訳したりしていて、ぼんやりながめているだけで英語と日本語の関係の原点を見るような思いを抱く、なかなか面白い本だ。ここから彼の日本語訳が始まっている。ちなみに「V」の発音を表すため「ウ」に濁点をつけたのも、簿記で用いる借方貸方という訳語も福澤によるものという。
 ただし「千里眼」という言葉それ自身は、古くから仏教で用いられていたとあり、必ずしも福澤独自の造語ではないとも考えられる。とはいえ Fountain Pen を万年筆と訳したのは福澤ということだし、彼の想像力豊かな日本語訳の感覚が楽しいことに間違いない。



 日本語盤アルバム・タイトルの名訳のひとつとして名高いユーライアヒープの「対自核」。原題は「Look At Yoursefl」。だったら日本語のタイトルの方が、断然いい。
 これを考えたのは、当時の担当ディレクター氏。ご本人から直接聞いた話だ。ちなみに彼は国際基督教大学の出身で、英語の頭で英語を考える訓練を経てきた人だった。



 ボブ・クリュー・ジェネレーションのこのアルバム、邦題にすると「恋はリズムに乗せて」となる。アンディ・ウィリアムスのシングルが、日本ではヒット。その時の邦題が、これだった。
 この邦題、作品を聞きながらディレクター氏が考えたのだろう。音楽と響きあっている。ただし逐語訳ではない。意訳と言うにしても、だいぶ原題との距離がある。しかし的はずれでもない。むずむずと微妙な気持ちになる。
 原題の「Music To Watch Girls By」と、邦題の「恋はリズムに乗せて」。さて、どっちに軍配があがるだろうか。(大江田)


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